パチンコ・スロットに対する規則改正が来年2月に迫る中、外部の専門家は現状をどう捉えているのか。一般社団法人「パチンコを元気にする会」の理事長を務める戎谷育雄氏、名古屋に拠点を置く小出総合開発研究所代表の小出泰生氏、元パチンコ専門誌副編集長の志方正紀氏の3人に話を聞いた。(前号から続く。聞き手=溝口恭平)
カジノ解禁は影響せず 業界全体のイメージも重要
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(左から)小出、戎谷、志方の各氏 |
――IR法案通過はパチンコ業界にどう影響するか。
小出 カジノについて懸念していたのは、入場制限がかかるかどうか。日本人の入場不可は考えにくいので、回数を制限するのか、入場料制にするのかといったところだ。自由に行けるとなると、パチンコユーザーがそちらに流れる可能性がある。
志方 カジノの出店が予想される地域のホールは気にするのでは。
小出 ただ、入場制限がかけられるなら問題はないだろう。1回の入場で仮に1万円必要となれば、大きな影響はないと思う。
志方 行ったとしても1回くらいか。普通に考えて、影響しないというのが一般的。
小出 それよりも重要なのは、パチンコに入場制限をかけるかもしれないということ。そんなことをされたらパチンコ業界は潰れる可能性がある。
志方 登録カードを作り管理する方法も取りざたされているが、手軽に入れるのがパチンコの魅力。設備投資もばかにならない。
小出 コミュニケーションをとるために、1円パチンコを少し打って帰るという客もいる。
志方 1円パチンコのユーザーは高齢の客が多い。そういう客がカードを作ってまで入るかという疑問はある。
戎谷 多くのパチンコ客は愛好家であり、店員よりも遊技内容のことを知っている。例えば、釣りの愛好家が釣具屋に行って、何か購入するとき、店員が道具のことを何も知らないということはありえない。少し例えが極端かもしれないが、パチンコ店ではそれがまかり通っている。愛好家や初心者に対応したプロとしての運営を見直すべきだと感じる。
志方 とにかく今回の警察庁の規則改正は、ギャンブルと娯楽の線引きをしようとするものであり、カジノと同じ基準にすることはないと思う。
小出 警察庁や族議員と話せるホール経営者がいなくなったのも、業界にとってはダメージだ。1996年の社会的不適合機撤去の際、撤去に応じないという意見が業界内にあった。警察庁側は換金をさせなくすると圧力をかけてきたが当時、全日遊連の理事長だった小野金夫氏(故人)は、警察庁と折り合いをつけながら撤去を進めた。
志方 小野さんはホール経営者だったが、渡り合うところはちゃんとやっていた。
小出 違うところは違うと言っていい。ただ、警察庁の要請やそのOBの言動に真剣に耳を傾け行動しないと、業界にとって大きなダメージになる。同じことが2015年のクギ問題で起きた。警察庁が出したハイスペック機の自主撤去要請を、業界団体が拒んだ。だからクギ問題で突っ込まれ、結局撤去に追い込まれた。
志方 いわば警察は、自分たちでOKを出したのに、それを撤去させた。
戎谷 担当官庁、各種遊技団体など、それぞれに立場と役割があるが、これを機に大衆娯楽として、さらに多くの層から支持される業界へと発展させる必要がある。
小出 確かに。今までどうにか乗り越えてきたし、指摘されないならやってもいいという考えのホールもある。超大手ホールは、一般上場企業と同等のモラルでやっていこうと努力している。業界全体が、世論に認められるものであってほしい。
――小規模ホールは特に厳しいという指摘もあるが。
小出 生き残るのは無借金経営の会社や、財務体質が強固で固定経費の比率が低い企業。規模の大小だけでは判断できない。変動経費は抑えられるが、家賃や返済金などの固定経費は抑えられない。危険なのは、ここ2、3年で急拡大したホールだ。当時の試算で計画が立てられているので、特にファンドや貸しはがしをする銀行から借りていると、厳しい時期を乗り越えるのは難しくなる。小規模店舗の方が、小回りが利くという利点はある。また、経営と営業の見直しを行いビジネスチャンスに変えることは可能だと思う。
志方 大型店は、射幸性が下がると集客範囲が狭まる。売り上げの減少幅は10%台の半ばになるのでは。
小出 広告規制で痛手を受けたのも大型店。こうした中でも売り上げが上がっている私のクライアントは、大型店から流れてくるお客様をしっかり拾えている。
志方 ユーザーが減る、あるいは来店頻度が下がるのは確実。店舗も減るだろう。
小出 ただ、当たり前のことを当たり前にやれば、儲かる店舗になる。ヒト、カネ、モノ(機械)、データ、営業などをしっかり把握することが大切。経営者として経営能力があれば乗り越えることができる。
志方 財務がずさんなホールは確かにある。
戎谷 ホールは大きなキャッシュフローで動く。極端な話、10日後に300万円の支払いがあったとしても、どうにかなってしまう。飲食店ならそうならないが、パチンコ店は何とかなる。だから細かな計画を立てないところもある。
――一方で、パチンコが庶民の娯楽に戻る機会であると捉える人もいる。娯楽のために来る客も増えていると聞くが。
志方 過去の例を見ると、射幸性が下がれば客が減るのは確実。
小出 結局、コアなお客様が好むのは、射幸性の高い機械が多い。
――台の入れ替えがあれば、メーカーは潤うのでは。
小出 一時的なものだろう。ホールは利益が下がれば、まず人件費に目を向けるが、限界がある。削りやすいのは機械代だと思う。
志方 下位メーカーから淘汰され、業界の寡占化が進むのではないか。実際に、今もその傾向はある。
戎谷 メーカーは上場企業が多いので、その点でも厳しさはある。
小出 ここでも無借金の会社は比較的安泰ではないかと思う。
(おわり)