北の外貨獲得手段 多岐に

中国から東南アジアに拠点シフト
日付: 2017年06月07日 00時00分

 北韓の外貨獲得源として第一に名が挙がるのが中国だが、近年はアフリカや東南アジアの国々も注目されている。北韓はアフリカで軍隊指導やモニュメント制作、東南アジアでは労働者派遣や飲食店経営などを行っている。

 世界貿易機関(WTO)などのまとめによると、北韓の貿易高は昨年、約60億ドルとなった。その9割超にあたる55億ドルが、中国との取引で生まれたものだった。 北韓の外貨獲得源は、貿易だけではない。麻薬や武器取引、偽造紙幣、サイバー犯罪など、統計に残らない外貨獲得手段もある。外国への労働者派遣もその一つだ。
ロシアでの林業労働をはじめ、中東での建設労働など、北韓は”人材派遣業”で年間数億ドルの利益を上げているといわれる。近年は専門知識を活用した外貨稼ぎも盛んで、アフリカでの軍隊指導やモニュメント制作が盛んだ。
こうした動きを受け、韓国の朴槿惠前大統領は昨年5月、エチオピア、ウガンダ、ケニアを訪問。北韓との関係見直しを迫った。その結果、ウガンダのムセベニ大統領は、即座に北韓との軍事協力の断絶に言及した。ボツワナは2014年に北韓と国交を断絶し、ナミビアは昨年、北韓の鉱物関連会社の創業を止めた。
今年に入ってからは、セネガルが北韓の労働者に対するビザ発給を停止していると伝えられた。セネガルには、北韓の万寿台創作社に所属する作家の手による巨大なモニュメント「アフリカン・ルネッサンス」がある。ボイス・オブ・アメリカによると、2010年の独立50周年を記念したこの巨大像制作で、北韓は2700万ドルを受け取ったという。
ただ、一部の国の対北対応だけで、アフリカ諸国が北韓との関係を断絶しようとしていると判断するのは早計だ。国連は制裁の履行状況を各国に提出するよう求めているが、アフリカ54カ国のうち、報告書を出したのは11カ国にすぎない。
近年注目されているのは、東南アジアでの経済活動だ。金正男暗殺事件の際に取り上げられたように、北韓は東南アジア諸国で、労働者派遣や飲食店経営などを行っている。WTOによると、北韓との貿易高で、中国、インドに次ぐ3位がフィリピン(8700万ドル)、5位がタイ(5000万ドル)だという。
ここには当然、アンダーグラウンドの経済活動は含まれない。輸出入が禁止されている機械類の取引や、マネーロンダリングだ。北韓は近年、国際金融網の制裁から逃れるため、それまで拠点としていた中国から、徐々に東南アジアに拠点をシフトしているという。
トランプ大統領は4月末、フィリピン、シンガポール、タイの首脳と相次いで電話会談を行った。5月にはASEAN外相と米国務長官の会合がワシントンで開かれた。
最初の会談相手となったドゥテルテ大統領のフィリピンは、ASEANの中では2国しかない北韓大使館のない国でありながら、東南アジアの拠点とされている。北韓の地下経済活動の一つに麻薬の密売がある。麻薬犯罪撲滅を掲げるドゥテルテ大統領はどう対応するのか、東南アジアにおける対北包囲網の強化は、始まったばかりだ。


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