高麗青磁への情熱-87-

まさ子の発病(五)
日付: 2017年03月15日 23時08分

 彼女は憤然として、そう言った。まさ子の母は面目なさそうな表情だ。
「これ、まさ子ったら。何てこと言うの? あんたをわざわざ訪ねて来てくれた人に、そんな八つ当たりをするなんて、ちょっと失礼じゃなくて?」
 「何が失礼よ。誰が来てくれって言ったの? どっちがほんとうに失礼よ」
まさ子の母がどうしようもないといった表情で私を見た。
「この子ったら、意地悪をして当たり散らすんで、ほんとうにすみませんね」
「お母さん。あまり心配なさらないでください。ここに来るからには、まさ子の嫌がらせくらいは覚悟してましたから、安心してください」
こんどはまさ子を見下ろしながら、哀願調で言った。
「まさ子、何でも言ってくれ。おまえが何を言おうと、ぼくはじっと聞くよ。何もかもぼくの不人情のせいだから。だから、おまえがどんなひどいことを言っても、聞く覚悟はできている。おまえもそうだろう。久し振りにぼくと会って、嬉しいけれども、この間のことを考えると悔しくてならないんだろう。おまえの気持ち、ぼくはよくわかる。さあ、思う存分ぼくのことを怒ってくれ」
まさ子はついに、大声で泣き出した。私は口をきっと結んで彼女の言葉を待った。
「そんなに理解のある人が、あのときどうしてあんなに不人情に、辛く当たったの?」
「とにかく、すまない。過ぎたことは忘れてくれ。今日からおまえはぼくの妻だから、過ぎ去ったことはクスリとして、これからは一緒に楽しく暮らしていこう」
私はそう言うしかなかった。
「あたしをこんな姿にしたのだから、さぞ面白いでしょうね」
「もうそれくらいにしなさいよ」
まさ子の母が彼女を止めた。彼女はもう泣いていなかった。
「花子、お茶を持ってきて」
花子とはまさ子の妹である。
「あ、そうそう、忘れてたわ」
花子の運んできたお茶を飲みながら、私は花子に言った。
「平鉢と湯と匙を一つ、持ってきてくれ」
「何に使うの」
花子が一言いった。
「余計なことを言わずに、持ってきなさい」
花子は出ていって暫くすると、戻ってきた。
先ず平鉢に、買ってきたくるみを五個入れ、さらに水を注いでから粉砂糖を入れ、匙で何度かかき混ぜると、くるみが溶けて、粥のようになった。私が先にひと匙味をみた。


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