金正男暗殺の動機について、さまざまな憶測が飛びかう中、一説として浮上したのが、金正男の亡命政府関与説だ。ロシアや中国は1950年代から、亡命してきた北の元高官たちを庇護してきた。だが、金大中政権が登場し、ソ連や中国にいた彼らの動きは止められた。最近また、元高官を含む一部の脱北者が、金正男を担いで亡命政府を樹立する計画を立てているという。
この情報に対して統一部は2月21日「一部の脱北者の逸脱だ」と述べ、亡命政府の樹立にくぎを刺した。韓国憲法では「大韓民国の領土は韓半島とその付属島嶼」(第3条)となっており、北韓政権は、韓国領の北半分を不法に占拠する非合法集団だ。さらに統一の主体は大韓民国であるとも憲法(第4条)に明記されている。統一部は「亡命政府でなく大韓民国の枠の中で統一を進めるべきだ」と強調した。
最近「亡命政府構想」を立てているのは、ロンドンにある「国際脱北民連帯」だ。事務総長を務める金周一氏は、在ヨーロッパ朝鮮人総連合会の事務総長だった2013年、世界各地の脱北者をロンドンに集め、現地の北韓大使館前で同連帯の設立を宣言した。
金氏は当時、自らが発行する「FREE NK」という韓国語の新聞で、中国が北韓を接収するために、脱北者による亡命政府を運営していると指摘した。金氏はその後、今年上半期をめどに、ワシントンに亡命政府を樹立しようと活動してきたという。
関東脱北者協力会代表で、2013年にロンドンで金事務総長と会った木下公勝氏によると、金氏は40代と若く、韓国から英国に移ってからは各国の議員やNGO関係者とパイプを築いて精力的に活動していた。金正恩政権の打倒という意志も強く感じたという。
ただ、韓国の法に抵触する亡命政府を作るというのはどういうことか。木下氏はその点について「金氏はまず、現政権が倒れたとしても『白頭の血統』でないと北の住民はついてこないと考えている」と指摘した。南北にはさまざまな面で格差があり、その差がある程度埋まらなければ、韓国政府による自由民主主義体制の統一も難しいと金氏は考えていたようだ。
亡命政府の設立を提起した人物は、39号室出身の元幹部だという。39号室は、現在も金氏一族の外貨を管理している。元幹部は昨年、身を寄せていた韓国から家族とともにワシントンに渡っている。
金周一氏は今のところ、中国式の改革・開放政策路線を進めるという。金氏は中国の支持を得るためだと説明しているようだが、中国に利用され、金正恩政権打倒後の統一に障害となる懸念は残されている。