それから三日後、昼食を終え、タバコを喫いながら仕事を始めようとしたとき、崔鎭煥君がやって来た。
「柳君、君の義理のお母さんが来てるよ。さあ、行ってみな」
「馬鹿なことを言うなよ。ぼくに義母なんかいないよ」
仕事道具を取り出そうとすると、石田の声が聞こえてきた。
「おばさん、いらっしゃい」
その声に振り返ると、まさ子の母が彫刻室の近くにいた。
「おばさん、いらっしゃい」
挨拶をすると、まさ子の母は無表情にぼんやりと、私のいる方を眺めた。
「おばさん、お元気ですか?」
石田がまた訊いた。
「元気も何も、この頃は……」
なぜか言葉尻がすっきりしない。
そこへちょうど主人夫婦が帰って来た。二人も挨拶を交わした。
まさ子の母は無言で主人の後を従いていったが、その表情は不機嫌そうだった。やがて古沢を呼びつける声がして、それからこんどは古沢が私を呼びに来た。
「柳君、主人の家にちょっと来てくれないか」
「何でだ?」
「行けばわかることさ。早く道具をしまって、行きなよ」
仕事道具を一つひとつ片付け、主人の家に向かった。何かしらすっきりしない。古沢がお茶とカステラを運んできた。私がお茶を飲みながらカステラを一つ頬張っている間、彼らはひと言も喋らなかった。部屋の中では、主人夫婦を中心にして、その横にまさ子の母が座り、私の横に古沢がいた。
部屋の空気は、あまりにも寒々としていた。冷たい風が漂っている。とうとう主人の奥さんが沈黙を破った。
「これをもっと召しあがれ」
彼女はカステラとリンゴを勧めた。
「昼食を済ませたところで、お腹が空いていません」
「昼食後でも、いつもならカステラの四個や五個は食べるのに、今日はどうしたの?」
古沢が低い声で言った。
「柳君はもともと物事の飲み込みが早くてね」
そのとき、主人が私に話しかけた。
「柳君」
私は主人を見上げた。
「はい」
「まさ子が死にそうなんだ」
「エッ?」
驚いて私は主人とまさ子の母を交互に見た。