高麗青磁への情熱-81-

求婚(一五)
日付: 2017年02月01日 23時15分

 日本人巡査は誰彼となく「おまえ、日本語わかるか?」と訊いた。しかし、そのたびに皆「わからんです」の返事だった。このとき、向かい側から眺めていた梅子が、いたたまれなくなって、前に出てきた。私が口を押さえて、何も言うなという合図を送り、さらに、あっちへ行けと手振りで示した。彼女はすぐに気づいて、にこっと笑うと向こうに去っていった。
 とうとう、いわば通訳が現れた。うまくはないが、だいたいのところはわかるという男だった。
「この二人が喧嘩したんだが、一体何なのか訊いてやってくれ」
男が私に訊く。
「どうして喧嘩になったのですか?」
「あの向こうに黄金遊園があるでしょう? あそこでぼくがブランコに乗っていると、この人が急に走ってきて、下駄でぼくの尻を殴りつけるじゃないですか。人間、感情の動物、訳もなしに殴られて黙っている者がいますか? それで、ブランコから降りてこの人の向こう脛を足で蹴ったんです。この人が何度も下駄を振りあげてかかってくるんで、こんどはその下駄を取りあげて垣根の外に放り投げてやったんです。すると、この人が派出所に行こうって言い出したもので、こうしてやってきたってわけです」
その人は私の話を聞き終わると、こんどは日本人巡査に向き直った。
日本人巡査は通訳ができたことで嬉しくなって話の続きを待った。
「あのファングムユウォンがあるでしょう?」
「ファングムユウォンが何かね?」
と聞き返し、集まってきた人たちの方を眺めた。その中の一人が「黄金遊園です」と口をはさんだ。
「それから?」
「それから、この人がブランコに乗って、ワッタリカッタリしたです……」
「ワッタリカッタリが何かね?」
その人は、ブランコに乗って行ったり来たりする真似をしてみせた。
「わかった、わかった。この人がブランコに乗って、あっち行ったり、こっち来たりしたんだろう。それから?」
その人はこんどは日本人の方を指して言った。
「それから、あの人が下駄でこの人の尻を殴ったです」
こんどは日本人巡査も、何のことかわかった様子だった。
「あ、そうか。あの人が下駄を持ってこの人の尻っぽをボコンと殴った。そうだね?」
「ええ、そうです。それからまた、この人が殴られて腹が立って、下駄を取って、さっと投げ捨てたんです」
「あ、そうか。わかった。叩かれて、癪に障ったから下駄を取ってピーンと投げた。そうだね?」


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