高麗青磁への情熱-78-

求婚(一二)
日付: 2017年01月01日 01時30分

 「この鎖をしっかり掴んでるんだよ」
彼女は遊動木の上の鎖を掴み、やっとこさ乗った。
「これから、どうすればいいの?」
 「鎖だけしっかり掴んで立っていればいい。ぼくが揺すってあげるから」
と、私が遊動木を行ったり来たりした。遊動木は私と一緒に上がったり下がったりした。
「あなたが動くたびに、なぜこうして上がり下がりするのかしら?」
「それがまさに妙技ってもんだよ」
「妙技ですか? あたしもやってみようかしら」
「そりゃ無理だよ。何でもすぐにできるものじゃない。体で覚えなきゃ」
私は彼女の前へ近づいた。瞬間彼女が私の方に寄りかかり、そのとたん、遊動木は大きく揺れて、止まった。私たちはそのまま遊動木の下に転がり、私の片足がその下に敷かれてしまった。すぐに立ち上がろうとしたが無理だった。遊動木の下にはまった足をそっと見ると、靴下が破れ、踵に真っ青な痣ができている。足がひどく痛い。やっとのことで、痛む足を引き摺りながら、彼女に体を支えられ、椅子のあるところに座った。
「アー、痛い」
私がうめき声を出すと、彼女は私の靴下を脱がせ、足を揉んでくれた。
「ほんとうにすみません」
「すまない? 足首が折れなかっただけでも幸いだったよ」
私が靴下を履こうとすると彼女は、
「待ってて、こんなに青痣ができてるから、ひどく痛むわよ」
と言って、また足を揉んでくれた。
「大丈夫だから、大丈夫だから……。匂いのする足を揉んでもらうと、かえって恐縮するよ」
「汗が出ないから匂わないわよ」
「それでも、足だから……」
私が靴下を履き始めると、
「破れた靴下を履くことないわよ。この靴下、丈夫そうね。どこで買ったんですか?」
「これは日本の商店や朝鮮の店では売っていないんだよ。上海靴下といって、中国人の店でしか売っていないよ」
「値段はどれくらい?」
「値段を聞いてどうするんだ?」
「買ってあげるわよ」
「よしてくれ。貴女から靴下代をもらってもしょうがない」
靴下を履いてみたものの、依然足首がずきずきとした。私は椅子から立ち上がった。
「帰るよ」
「待ってちょうだい。一人では行けないわ。人力車を呼んでくるから、それに乗ってください」
「人力車など要らんよ」
私は彼女が引き止めるのも振り切り、家に帰った。


閉じる