政局の混迷や米政権交代で軍事挑発
11月に視察6回
韓国の朴槿惠大統領の弾劾訴追案可決を受け、韓国に対する北韓の非難攻勢が一層強まると予想される。韓国軍当局は北韓が軍事的な挑発を行う可能性もあるとみて、警戒や監視を強めている。
大統領の職務を代行する黄教安総理は弾劾案が可決した9日、韓民求国防部長官に対し「北が多様な挑発で韓国社会の混乱を高める可能性がある」と述べ、軍に警戒強化を指示した。外交部の尹炳世長官にも、北韓に対する制裁をめぐる各国との協力関係を維持するよう伝えた。
北韓は10月末に朴大統領の親友、崔順実被告による国政介入疑惑が浮上して以来、連日メディアを通じ朴大統領への非難を続けてきた。開城工業団地操業中断の責任など、朴政権の対北政策全般に対する問題を国政介入事件と関連づけ、朴大統領の弾劾可決を強く主張するなど、露骨に韓国政治に干渉していた。
2004年に当時の盧武鉉大統領の弾劾が可決された際、北韓の対韓国窓口機関「祖国平和統一委員会」は「状況を見守る」との報道官声明を出した。
しかし、朴大統領は当時の政権とは異なる対北政策を展開してきたことから、北韓の対応も激しいものになるとみられる。
ただ、弾劾可決を受け挑発に乗り出す可能性は高くないと予想される。北韓の挑発は韓国国内の状況も踏まえて行われるが、それよりも米政権を意識することが多いためだ。
実際に北韓は、米新政権が発足するたびに戦略的挑発を行うケースが多かった。北韓が近く挑発を行うなら、米トランプ政権が発足する来月20日に合わせる可能性があるとの見方が強い。
しかし、北韓の対米外交を担当する崔善姫米州局長は先月ジュネーブで開かれた米朝間の民間接触で「トランプ米次期政権の対北政策を把握する前に両国関係を悪化させる挑発はしない」との立場を示した。
とはいえ、油断はできない。
北韓が今年9月に実施した5回目の核実験を受け、国連安全保障理事会は11月30日に新たな制裁決議を採択。韓国をはじめ、日本、米国などもそれぞれ独自の制裁を発表した。安保理の新たな制裁決議は、北韓の主要外貨獲得源となっている中国向けの石炭輸出に上限を設けるもので、北韓の輸出収入を最低でも2割減らす内容となる。北韓は大きな打撃を避けられないとみられている。
これに対し北韓は、金正恩が軍部隊を視察する様子を国営メディアなどで連日伝えている。朝鮮中央通信によると、金正恩は朝鮮人民軍第380大連合部隊など11月だけで6回の視察を行った。
こうした北韓の動向について、韓国軍の合同参謀本部関係者は、「韓国政局の混乱や米政権交代をチャンスととらえて挑発する可能性を念頭に置いている」と述べ、北韓が今後、軍事的な挑発を行う可能性があるとの見方を示した。
北韓では、今月17日に金正日の死去から5年となるほか、30日には金正恩の軍最高司令官就任から5年という節目が続く。韓国軍当局は、北韓が国威発揚を理由に事実上の長距離弾道ミサイルの発射などに踏み切るおそれもあるとして警戒を強めている。