瞻星臺=編集余話

日付: 2016年11月16日 08時39分

 10日付の主要日刊紙の1面は、示し合わせたかのように同じ見出しが並んだ。「米大統領 トランプ氏」である。いずれも横書きでゴシック体。ほとんどの新聞は黒地に白字でインパクトの大きさを伝えていた▼こうした一致は別に珍しいことではない。大事故や事件の翌日は特にそうだ。だが、複数の新聞が特集記事に「トランプ・ショック」というタイトルをつけていたのには驚かされた▼他者への差別・侮辱発言が相次ぎ、「資質が問われる」と問題視されてきた候補が、事前の予想を覆して当選したのである。公職・軍歴がまったくない候補の当選も、既存のメディアからすれば衝撃的だろう▼ただ、実際に当選したのはトランプ氏である。クリントン氏優位を伝えていたメディアは、この事実を真摯に受け止めねばなるまい。開票速報を行った米国のテレビ局では、レポーターが「トランプ氏を支持する人などどこに行ったら会えるのか、という声に接した」と話していた。開票結果を表す地図に、それがよく表れている▼ヒラリー氏が勝った州は、米国北東部のニューイングランド地域と、西海岸に偏った。かたやトランプ氏は、それ以外の州をほとんど手中に収めた。大都市に拠点を構えるメディアは、彼らと”別世界”に住む人々の声に耳を傾けていただろうか▼思えば今年6月のことだった。英国のEU離脱を問う国民投票でも、残留派が勝つとの予想は裏切られた。メディアはもう少し、「常識」や「良識」から自由であっていいと思う。


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