高麗青磁への情熱-73-

日付: 2016年11月09日 17時44分

求婚(七)

 「うん、実に面白そうだね」
「まだ話してもいないのに、何が面白いの?」
「面白いと言えば、おまえも元気が出て話も進むってもんだろう」
「あなたは、何を言っても皮肉るんだから」
「おまえがそういうふうに聞くからそう言うんだ」
まさ子は続けた。
「ところが、同じ村に次郎という青年がいて、年も同じくらいで、とても男らしいという評判でした。それで、その未亡人はいつも次郎のことを心にとめていたということです。そんなある日、次郎が未亡人の家に遊びに来ました。あなた、聞いてるの?」
「うん。面白いよ。続けなよ」
「未亡人はすぐに餅を用意し、いろんな食べ物も揃え、次郎をもてなしました。聞いているの?」
私はわざと目を閉じ眠ったふりをしているうちに、ほんとうに眠くなった。まさ子が私の鼻をつまんで揺さぶった。
「人が懸命に話してるのに、寝ちゃって失礼よ」
「聞いてるよ」
「じゃ、どうして返事がないの?」
「返事なんかしなくたって聞いてればいいだろう」
「じゃ、最後までよく聞いてよ。未亡人は夕食後、どうすれば次郎と自分の娘を一緒にすることができるかと、あれこれと考えた末、妙案を思いつきました。――次郎さん。今夜、実家で法事があって出かけないといけないんだけど、娘だけを置いて行くこともできないのよ。心配していたところへあんたが来てくれて助かったわ。留守番をしてくださる? そうですね。そうですねって何? ちゃんと返事してくれないと。それでは、今夜中に必ず帰ってきてくれますね? もちろん帰ってきますとも。それでは、行ってらっしゃい。ぼくも今夜のうちに必ず帰らなくてはならないので。遅くなっても、必ず帰ってきてくださいよ。ええ、もちろんです――と言って、未亡人はうまくいったとばかり、どこかへ行ったきり夜遅くなっても帰りませんでした。それで次郎は一言も喋らないで、部屋の隅っこに座っていましたが、いつの間に横になって寝込んでしまいました。そんな味気ない男っているかしら?」
そうだ、この話はまさ子と私との場合とまったく同じだ。ずっと私だけが何の反応も示さないので、ついに彼女はほんとうに側に寄ってきた。私は飛び起きた。まさ子の気持は、かぎりなく燃え上がっているようだった。
このとき、私はさっと玄関に向かった。そして、裏庭に走って行った。
空には雲一つなく、ただ月の光だけが輝いていた。井戸端の杏の木に、セミが一匹ミンミンとやかましく、鳴いていた。
私は井戸水を汲み、頭からザブザブとかぶっていると、まさ子は裏庭まで私を追ってきた。


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