在日の英雄 義士 元心昌29

元心昌氏、南北統一促進協議会を結成 民団は除名を強行
日付: 2016年09月07日 09時36分

伝説の団長 権逸氏も共に

 1955年1月、「南北統一促進協議会(統協)」の結成に、既成民族組織は激しく反発した。朝連の後身である民戦はもちろん、民団も統協結成に反対した。左右が合作した第3の同胞組織が作られるのを警戒したためだ。「左」か「右」かの選択を強要される時代。第三勢力は登場すること自体が打倒の対象と見なされた。
民団の反対の立場は1954年12月16日、統協の予備体制である「南北統一運動準備委員会」が結成された頃、すでに確立されていた。同日、民戦系の媒体である『解放新聞』は民団が統一運動に反対する理由を「統一は良いが、本国が拒否したため私たちも拒否する」という団員の声を借りて説明した。『解放新聞』の報道は、民団は李承晩政府の手先という悪意的な観点から記述された側面があるため、真偽については論議の余地がある。
関連して、当時民団が統協をどのように判断していたのか、客観的に分析できる記録が残っている。元心昌氏主導の統一運動準備委員会の結成4日後である12月20日、民団東京本部組織委員会が発表した声明がまさにそれだ。民団は「自称南北統一を叫ぶ者に―雑類の妄動を警告ぐ」という題名のB5用紙1枚の声明書で、統一運動家をこのように定義した。
「(北韓)共産傀儡の欺瞞的な宣伝策略に陥った、在日同胞社会で居場所さえ無い雑流および親日の徒黨だ。(中略) 徒黨の行為を私たちは共産分子以上に憎悪する」
続いて民団は、祖国の平和的統一の唯一の方法として、次の4つの方法を優先して行うべきであると主張した。
はじめに、中国共産軍は北韓地域から直ちに撤収すること(6・25動乱の後、中国共産軍は、中国に戻らず北韓に駐留していた)。
第2に、6・25動乱の責任を(北韓の金日成)傀儡集団が負うこと。
第3に、国際連合(UN)の監視下で北韓単選(=単独選挙)を実施し、その代表者を韓国国会に送ること。
第4に、大韓民国による南北統一を実施すること。
これらの主張は、表現こそ多少荒いが論理的な妥当性を備えている。しかし、現実的には実現の可能性はゼロで、文字通り”主張”でしかなかった。6・25動乱は民兵をあわせて130万人を超える死者がでた凄惨な戦争であり、この時期は休戦からわずか1年余りが経過した時点だ。韓国の李承晩政府や金日成政権は、いつでも正面対決して戦争を行える体制が整った、超強硬対立の局面であった。
民団が統協の人的構成を「雑流、親日派」と非難したことは、調べてみるとある程度事実に起因しているといえる。統協の代表委員である朴春琴氏と權逸氏は日帝時代、それぞれ日本政治の主流の保護を受けて東京で議員に当選した人物であるか、満州国で判事を務めた高官出身であった。代表委員に入った南浩栄氏、李北満氏は左派の社会主義者に分類される人物であった。
さらには60年代半ば、韓国に韓国マーベルという会社を設立し、九老工業団地への進出第1号となった金容太氏や、60年代後半、民団中央の31・32代団長となった李禧元氏もこの時は社会主義者と呼ばれていた。 一般委員であったが、金萬有氏の場合には、親日と社会主義者両側に関係をもつ人物であった。金氏は日帝時代、東京医大の前身である日本医科専門学校を出て、東京の荒川区で西新井病院を設立した医師出身で、晩年には平壌に現代式の病院を建て、金日成に献納し、いわゆる”赤”の烙印を押された人物だ。
一部であってもこのような人的構成をみれば、統協に対して「不純」や、日和見主義的な人物の集まりという指摘が可能である。ただし、統協組織を率いていた主流のリーダーは元心昌氏や白武氏、金三奎氏などアナーキスト系言論人であった。すべての理論を確立して宣伝活動をしてきた経歴がある人々だ。
民団は統協を辛辣に批判しながらも、「氏名は略(省略)する」として、個人に対して直接批判することを避けた。民団の立場として、統協メンバーのなかで最も頭を悩ませた人物が元心昌氏であっただろう。新朝鮮建設同盟と民団創立を主導し、民団の中央団長を二度務め、中央顧問、東京本部団長まで経験した民団創立の当事者であり、民団の「生ける歴史」であるからだ。その元氏が統協組織の創設を主導し、中央代表委員兼事務局長に就任したのは、民団にとって受け入れ難いことであった。
1955年1月10日。民団は統協メンバーが東京で左右合同新年会を開催した日、元心昌氏、權逸氏など民団団員に対する制裁を議論した。そして2月5日、民団中央は第21回理事会を開催し、元氏、權氏に対して除名処分を断行した。民団史によれば、民団はこの時の除名処分を1958年10月18日付で解除した。
なぜ元心昌氏は、統協組織に左派社会主義者や親日の疑いのある者までを合流させたのであろうか?          (つづく)


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