高麗青磁への情熱-63-

日付: 2016年08月15日 12時16分

日本人女性、まさ子(二三)

 「では、窯に火を入れるのはいつ頃になりますか?」
「そうだな、急いで準備すれば、明日の午後五時には火を点けることができそうだ」
 「それでは、お祓いもその時間に合わせて行うように準備します」
私はその場を離れて、呉さんと相談した。酒や果物などは当日持ってくればいいが、その他の物は前もって準備を急ぐようにと頼んだ。
先ず、餅米を今夜浸しておいて明朝、水切りし粉にして、午後三時頃蒸すようにした。そして、供物として豚の頭と豚の足八つを買ってきて、これも今夜から煮るようにと言いつけた。お祓いの準備が着々と行われていった。
その日の夜、主人兄弟と古沢、そして呉さんは応接室で寝た。翌朝、彼らは起きるとすぐに沐浴して、それから火入れに取りかかった。私と黄君も後について沐浴した。黄君が窯に行き、私は彫刻室に入った。
昼食の終わる頃には、準備が完了していた。皆、命令だけを待っていた。しかし欲にはきりがないのか、せっかく金を掛けて行うお祓いだから、素人に毛の生えた何人かの女を使って行うよりも、口上の上手な巫女を呼んだほうがいいという考えが浮かんだ。私の言うことを聞いて、呉さんは近隣で評判の巫女、プクスリという女を呼んできた。
私の目にも、それは大きなお祓いだった。新築祝いや厄払いの儀式にも負けないくらい大掛かりなものだった。プクスリもふつうのお祓いだと思ってやってきたのに、ひどく驚いた様子だった。プクスリがその準備のほどを見て欲張ったのか、もっとお金がほしいと言って、私のところに駆け寄ってきた。
「名前に似て、まるで仔犬みたいにふくよかだなあ」
「まあ、何てことおっしゃるの。仔犬だなんて」
「仔犬が嫌なら取り消すよ」
プクスリはたとえ賤しい巫女だったが、すらりとした体つきと、魅力的な顔をしていた。
私は、こいつと言うと、彼女の頬をつまんで揺すった。
「アッ、痛い。あたしの頬が気に入ったんですか?」
「そうだ。ふっくらとしてるんで、つい触りたくなったんだ」
「でも、お門違いよ。あなたはまだ十代だけど、あたしは二十代を越して、もう三〇の歳よ」
「三〇か、三〇歳も悪くない。一五過ぎのお嬢さんを二人連れて遊ぶようなものと思えばいい」
横で静かに私たちの会話を聞いていたまさ子が、ベンイトに火を点けた。彼女は、私が他の女と話しているときはいつも、どこからともなく現れて、タバコに火を点けてくれるのだった。
「そのお嬢さんは誰なの?」
「ああ、主人の従妹だ……」
と言ったとき、横から石田が口を挟んだ。
「あなたと柳さんは恋仲ですか?」


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