THAAD事態で見えた中国共産党の正体

「未来韓国」金容三編集長に聞く
日付: 2016年08月15日 08時25分

 ――THAAD事態を契機に、韓国にとって中国とはどの様な存在かが問い直されている。韓国の代表的クォリティー週刊紙「未来韓国」の金容三編集長に韓中関係を診断していただきたい。グローバル時代に「中華」と呼ぶのもおかしいが、「中華軍国主義」というべき中国・中国共産党の力はどこから出るのか。

金容三・未来韓国編集長

 「中国の国家指導部は、世の中を中国を中心に考える。普通の韓国人は中国が共産主義国家であることも知らない。共産党は独裁体制維持のため全党員を教育する。共産党学校は共産党が中国の発展の中心であると徹底して教え、エリート意識を注入する」
 ――中国共産党の特徴は。
「指導部の構成を選挙ではなく薦挙で決めることだ。中国では末端の地方行政組織にも副責任者が多い。郡では副郡守が9~10人程度。多様な経験をさせて副郡守に抜擢し、副市長、副省長などに育て中央常務委員になり、その中で最高指導者を薦挙で決める。計画的な人材養成と能力検証は長所だが、この方式では内部で腐敗が生じたらこれを制御する装置がない。そして民意が全く反映されない」
――中国共産党としては効率的かもしれないが文明的秩序と調和できるか。
「今までは無難だったが、言論統制に失敗したら話は変わる。報道統制は徹底している。中国でSARSが発生した時期に3週間取材中だったが、現地では奇病の発生などまったく知らなかった。ソウルからの電話で知り、帰国のとき空港で隔離された」
――報道統制は北韓も同じだが。
「政治的問題でなければ厳しく統制しない。ただ、生存が脅かされている階層が立ち上がれば問題が変わる。このような爆発を防ぐためには毎年7%以上の経済成長が必要だが、すでに崩れた。それで都市化とか『一帯一路』など、人為的インフラ建設で対応し、バブルでバブルを覆っている。外部世界も中国が爆発すると困るが、韓国はあまりにも深く中国に足を踏み入れた。専門家たちは警告したが、浮上する中国に幻惑されて聞かなかった」
――韓国は今も投資を拡大し続けている。
「中国が駄目になれば最も打撃を被るのは韓国だ。米国は9・11後、中国包囲網を完成させた。これに中国が反発したのが南シナ海問題だ。米国が作った対中包囲網はインド、オーストラリア、ベトナムまで束ねた。この対中包囲網の中で最も弱い輪が韓国だ。その象徴が、朴槿惠大統領が”偽の戦勝節”で天安門の櫓に上がったことだ」
――中国共産党が変わらないなら共産主義そのものを何とかせねばならない。以前、日本が「経済動物」(エコノミックアニマル)と言われた時期があったが、今は韓国が「経済動物」といわれても反論しようがない。
「建国以来少しも変わっていない共産党が『民主化』されると一糸乱れない国家的なリーダーシップはとれなくなるだろう。韓国の親中派は今回のTHAAD事態で初めて中国共産党の正体に気づいたはずだ。歴史的にベネチアのような小国がうまくやった例もあるが、べネチアは自らのアイデンティティーを忘れたことがない。韓国の親中派にはアイデンティティーがない」
――韓国の親中事大主義がこれほど強く形成されたのは理解し難い。この流れは何か。
「韓国人、特に親中派の意識は朝鮮王朝の官吏そのものだ。朝鮮王朝末期の指導層は国際情勢を見誤った。当時、覇権国英国に帝政ロシアが挑戦する構図だった。朝鮮の指導層は、日本が日清戦争後獲得した遼東半島をロシアなどの『三国干渉』で返還するのを見て、ロシアについた。そして今は中国が覇権をとると錯覚している」
――まるで親中事大主義勢力が復活したようだ。
「中国は韓国人の弱点をよく掴んでいる。済州海軍基地問題も中国の対韓国工作にやられたケースだ。中国はさらに韓日葛藤を煽る。親中派は愚かにも日本に対して中国の代理戦争をしてきた。中国や親中派の目標は韓国を韓米日同盟から切り離すことだ」
――中国はなぜ核武装した北韓を庇護するのか。
「北韓は、米国の対中包囲網の中で中国の唯一の同盟だ。北韓が核武装をしても十分コントロールでき、瀋陽軍区は北を制圧できると考えている。北韓軍に絶対に必要な原油を押さえているからだ。時たま中国が北韓へのパイプラインを止めると、北韓側が現金で油を買いに中国へ来る。中国が北韓を延命させるもう一つの理由は、経済発展に北韓の資源が必要だからだ。北韓が年間1%ずつ成長できたのは『中国特需』のためだ。北韓は米国への対抗カードとして極めて有用だ。もちろん、中国の意図を知る平壌側も米国に接近を試みたことはよく知られた事実だ」
――中国は、韓国は市場を通して制御し、北韓は戦略物資供給を通じてコントロールする戦略を駆使するわけだが、反文明勢力と戦わない韓国社会も問題だ。
「中国は韓米連合軍と直接国境で対することより、核兵器を持つ北韓が韓国を圧倒する方がいいと考える。中国は米中対決構図では決して北韓を捨てない」
――北韓のSLBMは間もなく完成する。韓国も決断せねばならない。
「核兵器製造は70年前の技術だ。韓国の技術なら十分可能だ。垂直発射管を搭載できる3000トン級の潜水艦の建造も急がなければならない。米大統領選の結果に注視する人が多いが、韓国人の考えと行動が問題だ。米国は韓国から軍を撤退させたことがあるが、在日米軍や駐独米軍の撤収を取り上げたことはない」
――韓国が独自の核武装をしても国際的な制裁はないと思う。イスラエル、インド、パキスタン、北韓より韓国の生存権を認めなければならない。韓国の核武装は米国の国家利益に反しない。
「防御兵器のTHAADへの反対が多いのに、戦術核配置は簡単だろうか。独自核武装の決断はもっと難しい。着実に準備をし、米国に戦術核の再配置を要求し、それが駄目なら決断すればいい。韓国でそういう外交能力を持っていた人物は李承晩だけだった」
――日本が北の脅威を利用して中国に対抗できる「普通の国家」化を推進した。韓国も金氏王朝を戦略的に利用せねばならない。
「国家指導部を補完する韓国の『集団知性』のレベルが問題だ。選挙のときの国民の選択も問題だ。韓国はいま大戦略が必要だが、この大戦略は文明史的観点、グローバル思考に立脚せねばならない。最近金日成の正体を明かす本を書いたが、金日成が何をやったのかではなく、当時東アジアで何が起こっていたかを知ってこそ本質が見えてくる。植民地時代に『青山里戦闘』など独立軍が日本軍を破った戦闘は、当時ウラジオストクのチェコ軍団が帰国して膨大な量の武器を独立軍に売ったから可能だった」
――大韓民国は文明史的進化の流れに乗って成功した。金正恩は韓国にとって祝福になりえる。反文明への警戒心と韓国の敵に対する非対称戦略を立てるきっかけをくれたからだ。
「今、大韓民国は北の核と中国共産党の挑戦の前で行き止まりに追い詰められているが、この状況を生かせるなら悪くない。われわれが最も警戒すべき状況は、望まない時期に望んでない状況が生じることだ。われわれの意志とは関係なく韓国の運命が決まるより、危険があっても他力本願ではなくわれわれが状況打開を主導すべきだ」


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