金正恩体制になって減少していた脱北者が、今年に入って初めて前年比で増加していることが明らかになった。エリート層の脱北も増えているようだ。背景には恒常的な生活苦に加え、将来への不安があるという。脱北者、特にエリート層が金正恩体制を見限っているのは、体制の不安定さを示すものだ。
統一部の発表によると、今年1月から7月までの間に韓国入りした脱北者は、前年比15・6%増の815人(暫定)だった。金正恩政権になって国境地帯の取り締まりが厳しくなり、脱北者が減少していたが、初めて前年を上回った。
連合ニュースによると、エリート層の脱北者が急増しているという。関係者によると、金正恩政権が揺らいでいることがその一因に挙げられる。
かつての脱北は、貧困から逃れることを目的としたものがほとんどだった。今も飢えから逃れるための脱北が多いものの、最近増えているのは貧困とは無関係のエリート層だ。エリート層の脱北が過去になかったわけではないが、エリート層の脱北でも過去との違いがある。
かつては粛清など身の危険を感じて逃れる高官が多かった。しかし最近は、体制に絶望し、韓国での生活にあこがれて脱北する人が増えたというのだ。
7月に山口県に漂着した北韓男性は、日本近海まで小型船で近づき、そこから泳いで日本への亡命を求めた。命がけの脱北を選んだ男性は、日本での生活を希望しているという。
エリート層の脱北で象徴的な事例となっているのが、今年4月に13人の男女が中国の北韓食堂から逃れ、韓国入りをはたした一件だ。韓国に到着した一行の多くは、北韓体制への失望と、韓国へのあこがれを口にしているという。
エリート層の脱北について関係者は「金正恩政権崩壊の兆候」と見る。北韓ではエリート層であるほど監視の目が厳しい。しかし事前に準備を整え、脱北を敢行できるのは、体制にゆるみが生じているためだと分析している。
7月にはより衝撃的な事件が起きた。香港で開かれていた国際数学五輪に参加していた18歳の北韓男子学生が、現地の韓国総領事館に駆け込んだのだ。いわば将来を保証されたエリートの卵ですら、脱北を選んだのは、北韓体制の求心力が相当低下していることの証左といえる。