高麗青磁への情熱-61-

日付: 2016年07月21日 15時07分

日本人女性、まさ子(二一)

 「おまえの気持ちはよく分かった。あんまり興奮しないで。このわからず屋のオモニが体のよくないおまえに、要らぬことを言ってしまってごめんなさいね」
「オモニ、そうじゃありません。オモニはぼくのためを思って言ってくれたのです。この親不孝者のぼくが、オモニの言うことに従わず、申し訳ありませんでした。許してください」
「ああ、しっかりした子だよ。おまえのその気持ちは、朝鮮人なら誰もが見倣うべきものよ。いつまでも変わらず、ずっと皆の亀鑑となっておくれ。これがオモニとしての頼みですからね」
この日も主人が呉さんとまさ子を連れてきた。
「大将、いらっしゃいませ。お陰で、随分よくなりました」
「柳君、もっと休んでいてもよろしいよ」
主人は先に帰り、参鶏湯の準備を終えた呉さんも帰り仕度をした。
「柳君、体に気をつけてよ」
「そうだ、呉さん、ちょっと待って」
呉さんが足を止めて振り返り、にこりと笑った。
「何か? 話でもあるのかい?」
「はい。あのー、窯にいつごろ火を入れるんですか?」
「そうだね。今、象嵌して釉薬を塗っている段階だから、たぶん二、三日以内になると思うよ」
「それでは、明日から行かなきゃいけませんね」
「もう少し休んでいればいいのに」
「家で横になっていると、やたら気になって仕方がないんです」
「そうですか。あの品は全部柳君の手によるものだから、気になるでしょうよ。でも、もう少し休んで、すっかりよくなってから出てくるようになさい」
呉さんも帰った。私が家で静養を始めてからすでに一〇日にもなる。これ以上じっとしてはいられなかった。他人の目にもよくない。重病で床についたのでもなく、もちろん過労から衰弱をきたしたのではあるが、ともかく面子が立たなかった。いつまでもこうして家で床に伏してばかりいられなかった。
次の日私は、工場に出た。あちこちから何人も駆けつけてきて、もう全快したのかと、どうせ休暇をもらった以上もう少し休んではどうか、などと言って気を遣ってくれた。
「柳君、来たのか?」
主人は豪快に笑った。この人はいつも気分のよいときには、気軽な調子で空笑いをするのだった。
「柳君」
「はい?」
「も少し休んでいてもよかったんじゃないのか?」
「大丈夫です。もう体の方も充分回復しましたし、これからは別に急の仕事もないようなので心配いりません」


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