韓国国家戦略フォーラム代表李春根氏に聞く
韓国大統領府も、米国ホワイトハウスも認めはしない。しかし、多くの軍事専門家は、北韓の「核兵器保有」を既成事実として認識している。
北韓は核兵器の運搬体系である長距離ミサイル能力まで備えている。6月22日には、射程4000キロにも及ぶ中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験に成功。米軍基地があるグアムや沖縄を攻撃できる能力を誇示した。
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昨年10月の労働党創立70周年l記念閲兵式に登場した長距離弾道ミサイル |
北韓の「核とミサイル」武装体系の完成が近づいている中で、韓国軍はまだ状況を「鋭意注視中」である。安保専門家で、韓国国家戦略フォーラム代表を務める李春根氏は「北韓が核兵器体系を持つ日、私たちはまるで本物の銃で武装した強盗に会った、哀れな通行人の境遇になるだろう」と警告している。通行人は、お金を奪われるかわりに命を救われるかもしれないが、核兵器を持つ北韓と向き合う韓国は、それよりもみじめな境遇になるというのが、李代表の考えだ。
北韓が絶対に核兵器を保有しようとする目的な何か。それについて李代表は「大韓民国という国家体制を北韓に吸収すること」と断言する。その理由は、核攻撃で脅迫することにより韓国を屈服させることができるからであり、これこそ「北韓版平和統一戦略」だという。つまり核で脅かし、今のままの韓国を吸収することが北韓政権の最終的な目標という意味だ。北韓が核兵器体系を完成させた場合、南北間の軍事的均衡は崩れることになる。
「核兵器体系」とは何を意味するのか。李代表は、運搬手段と核爆弾が結合されてこそ、「核兵器体系」は完成すると説明する。さらに李代表は、次のように言葉をつないだ。
「北韓は1954年、人民軍を再編し、核兵器の防衛部門を設置した。核開発の歴史は60年を超える。北韓は複数の核爆弾を作って保有しており、専門家もこれに対して異議を挟んでいない」
ただ、核兵器は保有するだけでは意味がない。核爆弾を投下できる装置、運搬手段があってこそ脅威となる。李代表は「まだ北韓の核爆弾は大きく重いため、北韓が保有している各種ミサイルには搭載しにくい状態だと判断する」と前置きし「北韓が小型化・軽量化を進めており、それができたという分析が提起されている。しかし北韓は実物を公開していないので、科学的にはそこまで高度の技術力を持っているかどうか証明できない状態」と話す。
北韓が核兵器体系を完成させた日、北韓が選択できる戦略の範囲は大幅に広がることになる。韓国の主要なターゲットを核攻撃することができるようになった北韓は、韓国にさまざまな要求を突き付けてくるだろう。大韓民国は核で武装した北韓の要求を受け入れるか、拒否しつつ核攻撃の脅威にさらされる以外にない。
李代表は、韓国の一部で提起されている「北韓の核兵器は米国との一戦のためのもの」という主張は誤った見方だと確信している。李代表は、北韓が米国に届くミサイル開発に苦心している理由は、米国の介入なしに韓国と一対一で現状に決着をつけるためだと強調する。
金日成の生前、金正日は「首領様の代に祖国を統一しようとするなら、米国本土を叩ける能力を持たなければならない。そうしてこそ安心して祖国統一の大事を主導的になすことができる」と述べたという。李代表は、金正日は戦略と戦争の本質を正確に理解していたとみている。
では、北韓の核に備えた韓国の対策はどうあるべきか。李代表は、北韓が米国に届く核ミサイルを近いうちに実戦配備する状況を念頭に置いて対策作りに乗り出すべきだと指摘する。しかし、韓国軍はまだ北韓の動向を「注視」することに力を注いでいるようだ。先日、北韓が潜水艦ミサイル発射実験を断行したとき、国防部はミサイルが300キロしか飛ばなかったことを根拠に「失敗」と発表した。
李代表は、「この時米国は、私たちとは異なり、この実験を『成功的失敗(successful failure)』と評価していた」と話す。「北韓は水中で発射されたミサイルが水面上に出たときに再度噴射装置を稼動させる技術を示した」という説明だ。
李代表は、韓国は北韓の核兵器体系がすぐに完成するということを前提に、対策を講じなければならないと強調する。対策は二つ。一つは、北韓が核兵器体系を完成させることをいかなる手を使っても防ぐことだ。いわゆる「イスラエル式」の案も検討すべきだという。北韓の核施設を先制攻撃するという案だが、これは北韓が核兵器体系を完成させる前にできるオプションだ。
第二の対策は、韓国も北韓と同じ兵器体系を保有することだ。米国の戦術核を再導入したり、韓国自ら核武装に乗り出すことを意味する。これは、核戦争が前提になってはいけない。対北戦争抑止力を保有するのが目的だと李代表はいう。
「北韓の核とミサイルの脅威は、今や臨界点を超えた。韓国の生死がかかった問題だと捉えて対処しなければならない状況だ」
秒読み段階に入った北韓の核の脅威。韓国にも決断の瞬間が迫っている。