オバマ大統領が、金正恩を金融制裁の対象にした。歴史的に米国の行動を見れば、事実上の「レジームチェンジ宣言」といえる。米国は今年に入ってから相次いでいる北韓の核・ミサイル挑発を受け、すでに独自の制裁を科しているが、今回の制裁理由は、住民に対する人権侵害。米国が核・ミサイル開発以外の理由で北の「指導者」を制裁対象にしたのは初めてだ。北韓は「超強硬の対応措置を取る」などと反発し、SLBMの発射も行ったが、金正恩政権崩壊の「カウントダウン」は早まるばかりだ。
イラクのサダム・フセイン、リビアのカダフィ大佐、ユーゴスラビアのミロシェビッチなど、「邪悪な独裁者」として歴史に名を残した人物の列に、金正恩も並ぶことになった。
米財務省は6日、国務省の報告書に基づいて、金正恩を含む最高幹部級15人と6組織を金融制裁の対象にすると発表。「金正恩の下で北韓は何百万もの人民に対し、法に基づかない処刑、強制労働、拷問などの耐えがたい残虐行為や苦難を負わせ続けている」と理由を説明した。
制裁の主体は米財務省だが、決断したのはもちろんオバマ大統領だ。金正恩が今回載ったリストはSDN(Specially Designated Nationals and blocked Persons)と呼ばれ、ジェトロの説明では「米国大統領が国家の安全保障を脅かすものと指定した国や法人、自然人など」となっている。
このSDNリストには多数の個人・法人が載っているが、前出の3人の独裁者もこの対象だった。かつてこの制裁を科された独裁者の政権がどのような終末を迎えたかは説明の必要がないだろう。
米政府が制裁対象にした団体は、国防委員会(6月末の「憲法」改正後は国務委員会)、労働党組織指導部と宣伝扇動部、国家安全保衛部、人民保安部、偵察総局だ。「首領唯一独裁体制」を支える核心的暴圧機関だ。金正恩など15人(黄炳瑞、金慶玉、チョ・ヨンジュン、崔富日、朴映式、金己男など)は、この機関を動かす幹部たちだ。
特に、「党の中の党」といわれる組織指導部と宣伝扇動部を制裁対象にしたのは、36年ぶりに大会を開催して体制を整備しようとした朝鮮労働党の解体を宣言したも同然だ。北韓住民にとっては71年間の抑圧から解放されるという希望になるだろう。
偵察総局(総局長・金英徹)は、北韓と全世界のテロ組織を結ぶ悪の組織だ。韓国民にとっては核ミサイルと同じ脅威であり、全面南侵を扇動する組織でもある。韓米両国は制裁発表の翌8日、中露が反対していた韓国内へのTHAAD配備決定も発表した。
平壤側は彼らに対する宣戦布告と反発し、2日後、潜水艦発射ミサイルの実験を行い、THAAD配備基地を攻撃すると言い出した。そもそも、平壤を守るため地球上で最も稠密な防空網を建設したと自慢する北側が、韓国にTHAADが配備されるのを問題にするのは話にならない。
韓米同盟としては平壤側の反発など想定内で、中国とロシアの韓国内THAAD配備反対は言語道断だ。北韓の核武装を助けた中露には韓米同盟に文句を言う資格などない。
いずれにせよ、北側と中国共産党が韓国の生存権を否定する姿勢をとり続ければ、韓国はより攻撃的な対応を講じざるをえない。
ところで、「労働党在日支部」である朝総連は今回の対北制裁対象リストから漏れた。北韓の海外における一大活動拠点であり、金日成時代から体制を支えてきたこの組織が入らなかったのは非常に残念だ。
解説 朝総連も岐路に立たされた
米国務省が6日に発表した北韓人権蹂躙関連報告は、今年2月に通った「対北制裁強化法」に基づき議会に提出する報告書だ。対北制裁強化法は、北での人権蹂躙と検閲の責任者と実行者を明示するように定めている。
今回の報告書で注目されるのは、国連総会が採択した国連北韓人権調査委員会(COI)の報告書を引用している点だ。つまり、「米国の敵ではなく、文明社会の敵」としての金正恩を国際刑事裁判所に付託するよう安保理に勧告した決定を尊重・確認したものだ。
米財務省は、直ちにこの報告書に明示された者らを制裁対象に指定した。金正恩をはじめ、住民を抑圧する暴圧機構の核心を一括指定することで、金正恩の唯一指導体系を直接狙った。つまり、事実上のレジーム・チェンジ宣言だ。
平壌側は宣戦布告だと反発するが、韓米同盟に対して無数の挑戦・宣戦布告をしてきたのは北側で、実際に攻撃もしてきた。任期を半年ほど残すオバマ大統領に今回の決断を強いたのは金正恩自身だ。核開発を決して放棄せず、その核ミサイルが米国本土を攻撃できるようになるのは時間の問題だと教えたのは金正恩自身だ。北韓自身が直接手を下さなくても、テロ集団に核弾頭を提供するか、EMP爆弾などを使って、文明の根幹を破壊する恐れがある。米国はそれを予防せねばならなくなったのだ。
オバマ大統領は、米国の安全が決定的に脅かされる状況を放置した大統領として歴史に記録されるのは耐えられない。米国が今現実的に取れる措置は、北韓の核能力を物理的に除去するか、危険な体制を除去することだ。大統領の選択は、国連が採択した勧告を実行することだった。
米国務省は、今回の措置が制裁リストに載っていないすべての北韓官吏に、住民弾圧に加担するか否かを選択せよという警告だと明言した。「労働党在日支部」である朝総連も金正恩と一緒に破滅を迎えるか、北韓同胞を解放する側に立つかを決断せねばならない。
オバマ大統領の決断は、北韓住民を弾圧体制から解放すると同時に、米国の安全を守る最善の方策といえる。米国はこの覚悟を証明するためTHAADの配置を発表した。
米国の選択は、韓国の国家利益・目標と完全に一致する。当事者である韓国こそ米国以上の覚悟と決断が必要だ。残された時間はない。
(洪熒・本紙論説主幹)