高麗青磁への情熱-59-

日付: 2016年07月06日 12時41分

日本人女性、まさ子(一九)

 「そんなこと言わんでもいいから、さあ早く食べよう」
まさ子は一口食べた。
「辛くっても、美味しいわ」
「そうか。美味しければたくさん食べるんだな」
食事が終わると、まさ子がさっと立って膳を下げようとする。
「まさ子」
「はい?」
「そのままにしておきなよ。オモニムが片付けるから」
「あたしがいるのに、どうしてオモニに片付けさせることができて?」
そのとき、母が入ってきた。
「まさ子、そのままそのまま。あたしがするから」
「いいえ、オモニ。あたしがしますので」
と言って、膳を運んでいく。母が後についていき、まさ子と二人で後片付けをしているようだ。まさ子が戻ってきた。
「まさ子、兄さんが待っているだろうに、そうして座っていてどうするんだ? どうした? 帰るのが嫌か?」
彼女は返事の代わりに私の方をじっと見つめていた。
「この家では寝れないよ。ぼくはまだ結婚前のチョンガーだ。その部屋で娘が眠るということは、礼儀に外れる。ぼくが送ってやるから、一緒に行くか?」
私は起き上がった。まさ子はそれでもまだ座り込んでいたが、仕方なく立ち上がった。一歩、二歩とついてくるまさ子は体から力が抜けてしまったかのように、とぼとぼと歩いてくるようだった。
「まさ子、早く行こう。こうしていては、今夜中に着かないぞ」
私は彼女の手首を摑んだ。彼女も私の手を握り返し、
「あなたもあたしの手を取ってくれることがあるのね」
「どうだ、摑んじゃいけない人が摑んだんで、辛いか?」
「人をいじめるのもほどほどにして」
「すまん。冷たく当たるもんで腹が立つだろう?」
「あなたにもそれだけはわかるようね」
「それくらいわからなきゃ人間じゃない。でも、それがぼくの生まれつきの性格なんだからどうしようもない」
まさ子が私の手を引っ張って、立ち止まる。
「もう着いたな。さあ、入りなさい」
「身体も良くないのに、家までついてきてくれてごめんなさい。今度はあたしが、あなたの家まで送るわ」
「ぼくの?そんなことしていたら夜が明けるよ」
「それでもいいわ」
「そう言わずに、早く入りなさい」


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