闇市場での商行為が生計を支え、一部には富裕層も生まれているという北韓の庶民層。市場の取り締まりを行う当局との攻防は「市場勢力による戦争」とも言い表される。経済制裁によって外貨の獲得に窮している北韓当局は、その市場勢力との新たな火種となりかねない動きを見せているという。
米国のラジオ局「自由アジア放送」(RFA)はこのほど、北韓の外貨稼ぎ機関の間で貿易枠(許可)の確保をめぐって熾烈な競争が展開されていると報じた。外貨稼ぎ機関が輸入した物品の販売量を増やすため、闇市場で勢力を伸ばしている個人の商行為を制限しているという。
RFAは両江道の消息筋の話として、両江道の丸太輸出許可を、人民武力部傘下の「8総局外貨稼ぎ会社」と「三百会社」も獲得したと伝えた。金正日時代まで、輸出許可は偵察総局傘下の「メボン会社」が独占していた。
両江道は北韓北部にあり、中朝国境を流れる鴨緑江と豆満江の源流がある地域だ。この両江道には香山指導局、牡丹会社、綾羅貿易、七星貿易など中央が運営する貿易機関が30も乱立しているという。
ほかにも貿易管理局、輸出源泉動員事業所、鉱業連合をはじめ、道クラスの外貨稼ぎ機関が数十以上あると消息筋は伝えている。
外貨稼ぎの機関が扱うのは鉱物資源が主だ。現在は、両江道の主要輸出品となっている丸太や山菜にまで貿易枠が指定されているとのことだ。
北韓で貿易業に携わっていた脱北者によると、金正日時代は外貨獲得に絡む貿易業務の枠は厳しく制限されていたが、金正恩政権になってから緩くなっているという。そのため複数の会社が一つの品目の枠を持ったり、担当する会社の入れ替えがあるのだろうと話す。
貿易会社同士の競争が熾烈になると、それまでは資金を出して貿易会社と利益を分け合っていた「金主」と呼ばれる資本家にしわ寄せが来るようになった。金主が輸出品を持ち出せないように移動に制限をかけるケースもあるとRFAは報じている。また、商品や資源の販売に対する規制が厳格化しているほか、貿易機関の名義貸しで金主から多額の中国元を取っているとも報じられている。