日本人女性、まさ子(一七)
「おまえみたいな雑女(尻軽女)に何を言おうと勝手だろう」
「雑女ですって! あたしが尻軽女みたいなこと、いつして? 何よ! 言ってごらんなさい。一八年間きれいに育ってきた生娘よ」
「生娘がどうしたって?」
「あたしが尻軽女みたいなこと、何をしたって言うのよ、言ってよ早く」
「ああ、これは無知がなす業だ。しようがない」
「尻軽女と無知は関係ないわ!」
「だから、日本人はしようがない」
「何がしようがないのよ、何が?」
「雑女の意味も知らないで騒ぎ立てるからだ」
「あなたは知識があるから、どうぞ物知りの言葉で解釈してみてよ。無知なあたしにちょっと教えてよ」
「よく聞けよ。まず文字からわからねばならん」
「文字がどうのこうのなんていいから、話をしてみなさいよ」
「文字では、雑と女を書いて雑女になるんだ」
「そう。さあ早く言ってみて」
「そんなに慌てさせないで、ゆっくり最後まで聞くんだ」
「そんなに引き延ばさないで、先はこれで後はこれって、いっぺんに言ってよ。まんまと曖昧にしてしまおうって魂胆なんでしょうけど、騙されないわよもう」
「ぼくがそんないい加減な人間に見えるのか? もしそうならば、間違いだ、間違い」
まさ子は催促しようとしたが、また長くなるといけないので、じっと眺めてばかりいた。
「ぼくの話をよーく聞け。雑の字が何かというと、おまえの父親の骨と母親の血がまざったという意味だ。そしておまえが女だから女になるんだ」
「こんどは、文字の意味までもあなたの思いどおりに作っちゃうのね」
「とんでもない。ぼくが作ったんじゃないよ。そんな意味があるんだよ」
「あなたは何でも自分の思いどおりにでっち上げるんだから、ほんとうに偉いわ、偉い」
「そうだ、そうだとも。ぼくがそうだからおまえのようなきれいな女が、ぼくの話し相手になってくれるんじゃないか」
「うまいこと言って」
まさ子が私の内股をつねった。
「ぼくが憎いか?」
彼女は何も言わず、ただじっと見つめた。
口喧嘩をしながら騒いでいたが、いつのまにか陽は西に傾き、夜の帳が私の部屋にも降りていた。
「ねえ、暗くない?」
母が部屋の外から尋ねる。
「はい、ランプを下さい」
「いいわ」