李承晩と朴正煕 アメリカに挑んだ大統領49

カーターの駐韓米軍全面撤退政策
日付: 2016年06月15日 10時54分

抑止と防御

 カーターは、朴正熙政権の独裁政治を在韓米軍撤退の理由として提示した。道徳的理由を軍事政策の根拠として適用しようとした米国史上最悪の大統領の一人であるカーターの在韓米軍撤収政策は失敗したが、カーターの政策が韓半島に与えた衝撃は大変なものだった。朴正熙の核開発計画もこれに関連したことだ。朴正熙の核開発計画は米国の軍事政策への反動的理由と根拠で推進されたものだった。
朴正熙政権18年間は、韓国の安保と関連する衝撃的な事件が相次いで起きた時期だった。米国の援助がないと国家運営がまったくできない状況で、朴正熙は安保と経済発展の間に必然的に存在するジレンマのために本当に苦心した。朴正熙は、この苦しい心情を次のように表現している。
「軍を維持するためには経済再建を制約せねばならず、経済を再建するためには、軍を削減しなければならない。国情は進退極まる、どうすることもできない状況だ。難関はこれだけであろうか」
大韓民国の国家安保の核心は、韓国軍とともに韓米相互防衛条約に基づいて韓国に駐屯している駐韓米軍だ。米国は韓国戦争のとき32万人を韓国に派遣して共産主義から韓国を守るのに成功した。休戦後、規模は縮小したものの、今日まで韓国に駐屯している米軍は韓半島での戦争を防いでいる最大の抑止力といわざるをえない。
戦争を抑止することは戦争で勝利することとはまったく異なる。戦争が起きないように防ぐ力を抑止力と呼ぶ。戦争が起きた後、敵を撃退し、自らを守れる力を防御力と呼ぶ。防衛のために必要な軍事力と抑止のために必要な軍事力は当然その規模と質が異なる。
北韓が侵略してきたとき、それを撃退し大韓民国を守れる力とは、北韓の軍事力を物理的に圧倒するわれわれの軍事力、そして戦争遂行を可能にするわれわれの経済力が、北韓より強大であれば確保される。軍事専門家は、攻撃と防御の比率などを計算して攻撃する側が防衛する側よりも約3倍の軍事力を持つとき、攻撃が成功する可能性が高いと主張するが、これは国家大戦略の次元ではなく、戦闘の現場、つまり戦術的次元で適用される話だ。攻撃する国の全軍事力が防御する国が保有する全軍事力の3倍であれば攻撃に成功するというわけではない。一時、大韓民国の学者の中には、北韓の軍事力が韓国の3倍にならないため、攻撃できないはずだと主張する人がいた。これは「戦争の非対称性」はもちろん、「抑止」論理を理解していないため導き出された、誤った分析だ。
戦争の非対称性とは、戦争を挑発する国が、自分の軍事力が全体的には防御側よりも弱くても、攻撃に最も有利な戦略と戦術を選択することで、相手の強大な軍事力を制圧でき、戦争を勝利に導けることをいう。ベトナム戦争では強大な米軍が相手のゲリラ戦術に苦しめられた。米国がいくら強大でも、アフガンやイラクのテロリストとの戦争は容易ではない。戦争の非対称的な性質のため、軍事的に劣る相手でも強大な国と対等な戦争ができるのである。
各国は戦争を遂行するよりも、事前に戦争が起きないように防ぐこと、つまり戦争を抑止することにより多くの神経を使わざるをえない。大韓民国と米国の韓米同盟の第1次的目標は、北韓の再南侵を「抑止」することだ。もちろん、抑止が失敗した場合、韓米同盟は大韓民国を防衛するという2番目の目標を必ず達成しなければならない。
米国軍は本当に強い。今も昔もそうだ。筆者は90年代半ばの数年間、前線の各部隊で将兵たちに多くの講義をした。ある日、西部戦線部隊の師団長と講義の前に話をする機会があった。「師団長、米国軍が強大だとよくいわれますが、どれほど強いですか」と尋ねた。師団長の答えは、「米軍は本当に強いですよ。火力なら米軍1個旅団が韓国1個軍団よりも強いでしょう」というものだった。ほぼ同じ兵力規模なら9~10倍強いという意味である。
イラク戦争(2003年~11年)を遂行する米軍は、湾岸戦争(1991年)当時の米軍よりも約6~10倍強いと自己評価している。米軍はあまりにも強くなったため、軍団級の部隊単位が不要になった。


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