瞻星臺=編集余話

日付: 2016年06月08日 23時17分

 ある韓国人画家の作品が、ちょっとした話題になっている。昨今のオークションで、立て続けに韓国人の作品として最高値を記録している金煥基(故人)の絵画である▼つい先日の5月末、金煥基の作品は3000万香港ドル(約4億3000万円)で落札された。昨年10月と今年4月にも3000万香港ドル台の値が付いたばかりである。ついにこの画家の絵は、韓国人作品の歴代落札額で上位3位を独占することになった。トップ10のうち6作品が彼のものだという▼金煥基の話題とともに報じられたのが、それまでの「記録保持者」であった朴壽根や李仲燮である。くしくも3人には1910年代生まれという共通点がある▼この時代の芸術家の多くは日本で学んだ。物心がつくかどうかという幼少期に国を失い、長じて海を渡り、1940年代から50年代にかけては戦禍を被った。彼らは絵筆にひとかたならぬ思いを託してキャンバスに向かったに違いない▼韓半島から来た芸術家は同胞同士で集まる機会を作りつつ、日本人の作家とも盛んに交流した。李仲燮と妻・山本方子のように、困難を経験しながらも愛をはぐくんだ例もあった▼戦争によって故郷を追われ、妻子を日本に送り返した李仲燮は、疎開先の済州で晩年をすごした。200通を超える手紙をやり取りしつつ、ぼろぼろの紙切れにまで絵を描いた。今も小さな美術館が済州にある。今年の9月は、作家の生誕からちょうど100年にあたる。世に埋もれた韓日の文化交流の再発掘に期待したい。


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