5月27日に閉幕した伊勢志摩サミットの共同宣言に「(北の核ミサイル開発を)最も強い表現で非難する」という文言が盛り込まれ、米国では金正恩の叔母が彼の幼少期について大手紙の取材に応じるなど、金正恩にとっては芳しくないニュースが続く中、北韓が中国で運営するレストランから複数の女性従業員が脱出したことが分かった。エリート層の脱北が相次いだことで、金正恩政権は今後、内部引き締めを強めるとみられる。ただ、エリート層の新たな脱北の連鎖が起きる可能性もあり、頭を悩ませているようだ。
複数の韓国メディアによると、北韓が海外で運営するレストランから再び複数の女性従業員が脱出した。韓国当局も新たに脱北者が出たことを認めた。ただ、従業員が働いていたレストランの所在地や脱北人数などについては明かせないとして理解を求めた。
韓国メディアの報道では、中国陝西省西安の北韓レストランで働いていた女性従業員2、3人が脱出したもようだ。従業員は東南アジアの第三国で韓国への亡命を待機しており、近く韓国入りする見通しだという。
北韓が外貨獲得のために海外で運営するレストランをめぐっては、先月も浙江省のレストランから女性従業員ら13人が集団で脱出したばかり。レストラン従業員の相次ぐ脱北の背景には、国連の経済制裁などで経営難に陥るレストランが増えているほか、厳しいノルマに対して従業員の不満が高まっていることが指摘されている。
海外の北韓レストランは1990年代までは十数か所しかなかったが、韓国で保守政権が続き、核実験などに対する国際社会の制裁が強まったことを受け、新たな外貨稼ぎ手段として急激に増えた。
韓国政府の推計では、北韓が海外で展開するレストランは中国や東南アジアなど12カ国・約130店舗に達する。特に北韓から近い中国には約100店舗があるとされる。
チマチョゴリを着た女性従業員は、接客に加え店内のステージで歌や踊りも披露する。最大の顧客は事実上、韓国人だ。
韓国政府は今年に入ってから相次いだ北韓の核実験や長距離弾道ミサイル発射強行を受け、韓国国民に北韓レストランの利用を自粛するよう呼び掛けている。中国各地や東南アジアの北韓レストランは客足が減り、相次ぎ閉店に追い込まれているとされる。
レストランなど海外に派遣された労働者は「忠誠資金」という上納金を負担しなければならない。また、手にできる賃金の大半も食費や住居費などの名目で吸い上げられるケースが多い。レストランの経営が厳しくなったことで、プレッシャーを感じた従業員が脱北に踏み切ったという見方もある。
女性従業員たちが脱北した理由は明らかにされていないが、確かなのは相次ぐ従業員の脱北が金正恩政権に大きなショックを与えたことだ。
従業員たちは厳しい選抜を経た幹部の子女らが多く、指導部への忠誠心が高いとされる。徹底的な思想教育を経て選ばれた「出身成分のよい」エリートたちが北韓を見限っていることは、金正恩政権に大きな打撃になるに違いない。そのため、従業員たちの脱北は単なる外貨獲得源への打撃にとどまらず、金正恩体制そのものを揺るがしかねない兆候とも指摘されている。
金正恩政権発足後、以前は飢餓など命の危機から逃れるためだった脱北の動機に変化が生じている。よりよい生活環境を求めて脱北する北韓住民が増えている一方、金正恩第1書記の「恐怖政治」から逃れるため、脱北する高官が増えているという。
北韓は従業員たちの脱北などを受け、内部引き締めを一段と強めると予想される。だが、関係者を厳しく処罰すれば、エリート層による新たな脱北が続く可能性がある。さまざまな特典や恩恵を与えたはずのエリート層の相次ぐ脱北は、金正恩政権にとって「恐怖」になっているに違いない。