高麗青磁への情熱-53-

日付: 2016年05月25日 12時09分

日本人女性、まさ子(一三)

 「そうそう、昨日食べたのは何だったかしら?」
「昨日食べたものって?」
「キムチはわかったけど、もう一つがわからないの」
「どんなの?」
「昨日、ご飯に混ぜて食べてたでしょ?」
「あれ何だったかな。ああ、カットゥギ」
 「あ、そうそう。カクテギ」
「それがどうした?」 
「キムチとカクテギの作り方をちょっと教えて下さるように、あなたからオモニに頼んで下さい」
「どうして?」
「習いたいのよ」
「そんなの習ってどうする?」
「女はおかずの作り方を、何でもみんな習っておかないといけないのよ」
「だけど、おまえが朝鮮のおかずを習って何になる? 嫁に行けば、そんなの作らないじゃないか」
「お嫁に行っても、習うものは習っておかないと」
「おまえは朝鮮料理が好きだからそう言うんだよ。朝鮮料理の嫌いな日本人に嫁ぐのに、何のたしにもならんよ」
「あら、あたしが朝鮮の男のところへ嫁げないっていうの」
「じゃ好きな朝鮮の男でもいるのか?」
まさ子はポッと頬を赤らめながら、
「いるわよ」
と、咄嗟に答えた。
「そりゃ、ひょっとすると片輪者じゃないのか?」
「とんでもないわ。手も足もちゃんとしてるわよ」
「じゃ、男前なのか?」
「特別美男子じゃないけど、あなたとどっこいどっこいね」
「よせよせ。そいつは恐らく目でも悪いんだろう。おまえみたいなのを嫁にするっていうんだからな」
「何ですって? 人をあまり馬鹿にしないでよ」
まさ子は腹立たしさを抑えきれず苛々した。彼女は私との距離を縮めようと、必死に努力していた。まして、わが家に来てからはあと一歩のところまで縮めたといえよう。しかし、今日はもう少し接近しようとしたところが、私が意外にもはぐらかしたから、いっそう腹立たしかったのだ。
この日もまさ子は、私と言い争いをして帰った。彼女の帰ったあと、母が私に諭すのだった。
「五、六月の日に照らされても過ぎれば寂しいというものの譬があるように、おまえがそうするからといってまさ子さんは去ってしまうような娘じゃないけど、それでも人の心ってわからないものよ。そうするうちに、突然離れて行ってしまってごらん。その長い一日が、どれほど寂しいことか。今考えてみなさい。お前自身を考えてみても、工場に行くまではかんしゃくを起こさないで、毎日来るように言いなさい」

柳根瀅
高徹 訳
馬瑞枝 画


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