日本人女性、まさ子（十）

　その理由とは、こうだった。主人は最初会ったとき私が気に入ったのだが、第一に体が健康で、第二に私の端正な顔つきに好感を持ったという。そして、しだいに才能が抜きん出ていることも知り、石田と宗高が私のことをからかっても必ずうち勝ってみせるという気概に惚れ込んだということだった。
主人はともかく私を一族の一人にしたいと思ったのだった。まさ子の前には長兄の娘、春江を候補にあげた。春江は私より二つ年下の一七歳で、人柄を見てもその体つきを見ても美人で、きっと私が気に入るだろうと考えたのか、春江が工場によく現れては私の彫り物を手にし、聞きもしないのに側にやって来てはぺらぺらとよく喋った。
その日も春江が帰った後で、石田がニヤニヤしながら私を呼んだ。
だが、この男が話しかけるときは私は決まって不快を覚えた。
「なんだね」
「柳さんは、俺たちが何か言うといつもそんな口のきき方をするんだから」
「そりゃ逆だよ。あんたたちが先に悪口を言うからだよ」
「今日は違うよ」
「何が違う？」
「柳さん、春江は君に惚れてるよ」
「何？　春江が惚れてるって？　誰に？」
「誰って、君に決まってるじゃないか」
「ぼくに？　そんな馬鹿な？」
「馬鹿じゃない。君に惚れたから、ああして毎日来るんじゃないか」
「何か用があって来るんだろう。ぼくに会いに来るんじゃないよ」
そう考えると、毎日通っていた春江が最近来なくなったのは事実だった。しかしそれには理由があった。私と春江の結婚問題を巡って長い間騒いでいた彼らは、春江は美人タイプだが性格が少しきつ過ぎ、私とは合わないと結論を下したのだ。
そして結局、彼らは考えた末、従妹のまさ子を当てたのだ。まさ子は私より一つ年下で、美人で性格もおとなしくて優しく、私にはぴったりだと結論を出したのだ。
しかし彼らも心もとなかったのか、当事者の両親の気持ちがどうなのか自信がなかった。ついに主人は叔母を訪ねた。そしてまさ子の縁談を持ちかけた。
「まさ子も、もう年頃でしょ」
まさ子の母は自分の耳を疑ったのか、
「何かいい話でもあるの？」
「あるから言っているんですよ」
「どこの男？」
「京城の男です。姉さんの方は結婚してすぐに東京へ行ってしまったので思い通り会えないけれど、この男はいつでも会えるので、どうですか？」