恐怖からの逃避 自由へのあこがれ

集団亡命 なぜ?
日付: 2016年04月20日 03時08分

 韓国で北韓からの亡命が相次いで表面化している。今月7日に中国にある北韓レストランで働く従業員13人が集団で亡命したのに続き、11日には軍高官や外交官の脱北も明らかになった。これまでの単純な生存型脱北ではなく、よりよい生活環境を求めて脱北する北韓住民が増えている一方、金正恩の「恐怖政治」から逃れるため、脱北する高官が増えているという。
 韓国統一部は8日、北韓が中国で経営するレストランの男性支配人1人と女性従業員12人が集団で脱出し、7日に韓国に入国したと発表した。従業員らは海外のテレビやインターネットで韓国ドラマなどを見ており、韓国に憧れて集団脱出を決意したという。3月の国連制裁決議後、北韓当局から外貨の上納金の督促が続き、負担を感じたという証言もあった。これまでレストラン従業員が少数で逃げ出したことはあったが、これほどの大規模な「脱北」は初めてだ。

韓国に入国した元従業員の女性と、彼女らが一時身を寄せていたとされる中国の北韓レストラン(写真=連合ニュース)
◇中国政府
 中国外務省の陸慷報道局長は11日の定例会見で、「集団で脱北した北韓のレストラン従業員は合法的な旅券を持って中国から出国した」と発表した。
 東亜大の姜東完教授(政治外交学科)は「中国政府さえ容認すれば、第2、第3の集団脱北は時間の問題」と指摘し、「内部で動揺があれば、大規模な脱北や政治的亡命が続くだろう」との見方を示した。
 脱北者のほとんどは中国に滞在しているとされる。中国政府は脱北者を保護した者に罰金を課し、通報者には賞金を与える政策をとっている。強制送還を恐れる脱北者が現地で問題を起こすことはほとんどないため、中国政府の脱北者政策は北韓政権に配慮した措置とみられる。しかし、中国政府の政策が「黙認」に変わるならば、姜教授が言うように大規模な脱北が続く可能性は十分あるとみられる。

◇脱北は再び増加へ?
 脱北者数は2002年の1143人から、2008年に2805人と、増加を続けてきた。しかし金正恩政権発足後、脱北者は一時期大幅に減少していた。だが統一部によると、今年1~3月期に韓国入りした脱北者は342人で、前年同期に比べ51人増加している。
 男性の脱北者数が増えたのも注目すべきことだ。今年1~3月期の男性脱北者数は77人で、前年同期に比べ22人増えた。北韓で男性は女性より厳しい統制下にあるため、これまで男性の脱北者数は少なかった。
 一般住民のほか、高官や海外駐在の外交官や貿易関係者の脱北、亡命も相次いでいる。韓国国防部は11日、朝鮮人民軍の情報機関、偵察総局での対南する大佐が韓国に亡命していたと明らかにした。統一部は同日、アフリカ駐在の北韓の外交官一家も脱北し、韓国に来ているとした。いずれも昨年の動きだという。
 韓国の国家情報院によると、昨年だけで北韓の高官20人が脱北した。元朝鮮労働党のある幹部は「金正恩の恐怖政治を恐れ脱北した。多くの党幹部が恐怖政治に脅えている」と証言しているという。
 金正恩政権では側近とみられていた張成澤・元国防副委員長や玄永哲・人民武力部長が公開処刑されたほか、党幹部70人以上が銃殺された。国家情報院は、金正恩が最高幹部クラスに対し不信感を募らせ、手順を無視して粛清するなど恐怖政治の度合いが強まっていると指摘。今後も高官の脱北や亡命は続くとみている。
 国家情報院関係者は「政権崩壊や住民の間で動揺が広がっている程度ではないが、党の統制力に一定の亀裂が入ったのは間違いないようだ」と分析している。


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