平壌が外貨稼ぎのため外国に展開している飲食店が、相次いで廃業や営業停止状態になっている。国際社会の対北制裁強化、特に韓国政府が3月8日に独自制裁を発表して約1カ月、国民に対する北韓食堂の利用自粛の呼びかけなどが効果を表しているとみられる。従業員13人の集団脱北も明らかになった。
カンボジア韓人会によると、今年に入って首都プノンペンで営業中の北韓食堂6カ所のうち、3カ所が廃業した。大同江食堂、綾羅島食堂、平壌高麗食堂の3店舗で、いずれも常連客が多かったという。相次ぐ廃業の原因は、韓国人客が遠のいたためと現地の韓国人は証言する。現地公館と韓人会は、北韓食堂の利用を控えようというキャンペーンを行っている。
アンコールワットがある観光都市シェムリアップの平壌冷麺館、平壌親善館なども韓国人観光客の足が途絶え、経営難に陥っているという。現地の旅行代理店で働くK氏は、「食堂は韓国団体観光客の必須コースで、夕方にもなると10台ほどの大型バスが長蛇の列を作っていた」と語る。しかし今では「『閑古鳥が鳴いてる』という言葉のとおりだ」と伝えた。
K氏によると、カンボジア内の北韓食堂利用客の90%ほどは韓国人観光客だった。隣国ベトナムでは、以前の半分以下に客が減ったという。ホーチミンにある平壌館、柳京食堂など4カ所の北韓食堂は、夕食の時間帯も閑散としていると、現地の韓国人は証言する。
北韓食堂が最も多い国は中国だ。自由アジア放送(RFA)によると、北韓と中国の貿易拠点である遼寧省丹東にある北韓食堂15カ所のうち3カ所が廃業状態だという。中国にある北韓食堂の数は、統計としては把握されていないが、100カ所以上と推定されている。
相次ぐ廃業は、制裁の効果だけでなく、外貨稼ぎのノルマが厳しくなったことがより大きな理由と見られる。脱北の理由は、90年代は飢えから逃れるため、その後は抑圧から逃れるため、金正恩時代になってからは残忍な粛清や恐怖から逃れるためと変化している。
金正恩は、核ミサイル開発によって国際社会の制裁を受けているが、それでも5月には36年ぶりの党大会を開くと宣言している。住民らは忠誠の献金を強要されているが、外貨稼ぎを任せられた食堂職員も例外ではない。海外での出稼ぎは、そもそも国家による労働力の搾取である。以前は想像もできなかった集団脱出は、国家による搾取と恐怖からの逃避だ。
韓国政府は独自制裁開始にともない、海外12カ国・130カ所の北韓食堂の年間収入規模が1000万ドルと推定されると明らかにした。東南アジアなどでは効果が見えてきている。日本ではどうなるだろうか。(ソウル=李民晧)
制裁奏功 廃業・休業相次ぐ
複数の報道を総合すると、13人は中国北東部の吉林省延吉市内にある北系のA食堂に勤務していた元同僚で、支配人の男性1人と女性従業員12人だ。13人が働いていたA食堂は、国連制裁や韓国独自の制裁の影響もあって経営が悪化し、北韓への”上納金”を支払う余力がなくなったため閉店に追い込まれたとされる。
しかし、彼らは昨年11月に、浙江省寧波市の柳京食堂に移ったといわれる。この情報が正しければ、国連制裁はおろか、その原因となった北韓の「水爆実験」の前のことだ。
7日に韓国に入った13人全員は、柳京食堂から脱出したという。B食堂の元従業員は、11月に延吉から来たA食堂スタッフが同店に勤務していたと証言している。中国外務省によると、13人は6日早朝に合法的な身分証を持って中国から外国に出たという。それからすぐ韓国に入ったというが、通常の脱北ではありえない早さだ。そのため韓国の国家情報院が水面下で接触して準備を整え、13人を迅速に亡命させたとの見方もある。
韓国では現在、高位級脱北者を増やす計画があるという。その数は1000人単位。国外にある北韓食堂では、歌や踊りの訓練を受けた女性従業員が働いている。こうした教育を受けられるのは、一定水準の「出身成分」でなければならない。従業員を監視する支配人も、高い地位にいる。
だが、抑圧された状態で不満が爆発し、相互監視は緩んでいるという。国情院はこうした人物に接触し、韓国行きを勧めているようだ。