高麗青磁への情熱-47-

日付: 2016年04月06日 11時06分

日本人女性、まさ子(七)

 まさ子は黙って、ただ俯いていた。
 「すみません。もうそれくらいにして……」
 「すまないって? 朝鮮民族全体の感情はどうなる?」
 「そんな、すぐに仕返しすることもないでしょ」
 「これはぼく個人の仕返しじゃない、朝鮮人の民族感情の表れなんだ」
 「とにかく、すみま……いえ、恐れ入ります。兄の頼みも忘れて、体の丈夫でないあなたを怒らせてしまって、ほんとうに恐れ入りました。早く落ち着いて、これでも召しあがれ」
 隅に置いてあった包みを取ると、リンゴがこぼれ出て、転がった。まさ子がその中から、一番大きくてよく熟れて美味しそうな「紅玉」を取って皮を剥いた。
 「なんだ、皮の剥けるまで待っていたら腹が減るよ」
 私は別のリンゴを取って毛布にごしごしと擦りつけ、半分に裂いてそのまま囓った。あっという間に三、四個ほど食べてから、さらにカステラ五切れを食べた。その様子を見ていたまさ子は
 「柳さん」
 「あなた、ブタって知ってる?」
 「ブタだと? じゃぼくがブタだとでもいうのか?」
 まさ子は黙って、微笑を浮かべるばかりだった。
 次の日も、体は思わしくなかった。その日も主人は呉さんとまさ子を連れて、私の部屋を覗きこんだ。
 「今日も、よくないかね?」
 「ええ、少し。今日も具合はよくありません」
 「そうだろう。長いこと苦労して衰弱した体が、一日や二日で治るはずはなかろう。安心して、回復するまでゆっくり休むことだね」
 主人は呉さんに、昨日と同じ参鶏湯の準備をさせ、先に帰った。昨日より早めに、食事前に鶏肉を食べて、横になり、寝返りを打っているうち、眠りに落ちた。どれくらい眠っただろうか。うっすらと目が醒める頃、大きなくしゃみをしたとき、まさ子が私のすぐ側で座っており、微笑を浮かべていた。
 「まさ子さん」
 「おまえがくすぐったのか?」
 「あたし、知らないわ」
 「おまえが知らなきゃ、誰がわかる?」
 「知らないわよ」
 まさ子は、にこりと笑うばかりだった。そのとき、母が入って来た。
 「鳳来」
 「オモニム、呼びましたか」
 「ああ、呼んだよ。今日はご飯を食べないで、蔘鶏湯だけだったけど、昼ごはんはどうする?」
 「そうだな。何とか食べなきゃいけないんだが……」
 「まさ子がいるからなの?」

柳根瀅
高徹 訳
馬瑞枝 画


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