日本人女性、まさ子(七)
まさ子は黙って、ただ俯いていた。
「すみません。もうそれくらいにして……」
「すまないって? 朝鮮民族全体の感情はどうなる?」
「そんな、すぐに仕返しすることもないでしょ」
「これはぼく個人の仕返しじゃない、朝鮮人の民族感情の表れなんだ」
「とにかく、すみま……いえ、恐れ入ります。兄の頼みも忘れて、体の丈夫でないあなたを怒らせてしまって、ほんとうに恐れ入りました。早く落ち着いて、これでも召しあがれ」
隅に置いてあった包みを取ると、リンゴがこぼれ出て、転がった。まさ子がその中から、一番大きくてよく熟れて美味しそうな「紅玉」を取って皮を剥いた。
「なんだ、皮の剥けるまで待っていたら腹が減るよ」
私は別のリンゴを取って毛布にごしごしと擦りつけ、半分に裂いてそのまま囓った。あっという間に三、四個ほど食べてから、さらにカステラ五切れを食べた。その様子を見ていたまさ子は
「柳さん」
「あなた、ブタって知ってる?」
「ブタだと? じゃぼくがブタだとでもいうのか?」
まさ子は黙って、微笑を浮かべるばかりだった。
次の日も、体は思わしくなかった。その日も主人は呉さんとまさ子を連れて、私の部屋を覗きこんだ。
「今日も、よくないかね?」
「ええ、少し。今日も具合はよくありません」
「そうだろう。長いこと苦労して衰弱した体が、一日や二日で治るはずはなかろう。安心して、回復するまでゆっくり休むことだね」
主人は呉さんに、昨日と同じ参鶏湯の準備をさせ、先に帰った。昨日より早めに、食事前に鶏肉を食べて、横になり、寝返りを打っているうち、眠りに落ちた。どれくらい眠っただろうか。うっすらと目が醒める頃、大きなくしゃみをしたとき、まさ子が私のすぐ側で座っており、微笑を浮かべていた。
「まさ子さん」
「おまえがくすぐったのか?」
「あたし、知らないわ」
「おまえが知らなきゃ、誰がわかる?」
「知らないわよ」
まさ子は、にこりと笑うばかりだった。そのとき、母が入って来た。
「鳳来」
「オモニム、呼びましたか」
「ああ、呼んだよ。今日はご飯を食べないで、蔘鶏湯だけだったけど、昼ごはんはどうする?」
「そうだな。何とか食べなきゃいけないんだが……」
「まさ子がいるからなの?」
柳根瀅
高徹 訳
馬瑞枝 画