静かな戦いに、熱い視線が注がれた。人工知能の囲碁ソフト「アルファ碁」と、世界トップクラスのプロ棋士・李世ドル九段の対局だ。結果は人工知能の勝利だった▼「ついに…」という声が聞こえてくる。ボードゲームの世界では囲碁がもっとも複雑で、人工知能がトップ棋士を破るのは難しいとみられてきた。ついにコンピューターが囲碁でも人間を打ち負かした、という賞賛の言葉をひっくり返せば、ついに囲碁でも人間は機械の後塵を拝すことになったという敗北感が漂う▼1988年にIBMの「ディープ・ソート」が、チェスのグランドマスター(最高位の称号)を初めて破った。敗れたベント・ラーセンはその5年後、後継機「ディープ・ブルー」が当時無敵を誇ったガルリ・カスパロフに挑むと聞き、「ナンセンスだ」と一笑に付した。しかし「あと20年はかかる」と、予言めいた一言を付け加えた▼はたしてディープ・ブルーは、僅差ではあるが王者カスパロフに土をつける。1997年。ラーセンの”予言”からわずか4年後のことだった▼李世ドルは対局を前に「人間のように碁の美しさを理解できない」と、対抗心を燃やしていた。しかしミスなく詰めてくる人工知能に圧倒された▼3連敗で迎えた第4局。李世ドルは最初から攻めて一矢報いた。いったん崩れたアルファ碁は、形勢を立て直せず敗れた▼カスパロフは「人間とコンピューターが協力するのが最善の形」と語ったという。無敵の知能と不屈の精神。名勝負にヒントはありそうだ。