米特殊部隊、韓国入り

金正恩の交替 強硬策も視野に
日付: 2016年02月24日 00時02分

 朴槿惠大統領は16日、国会演説で「誤った統治で苦痛を受けている北韓の住民を決して座視しない」と述べた。韓国大統領が公式の場で平壌の権力中枢と北韓住民を明確に分けて言及したのは異例のことだ。さらに大統領は、北韓の核とミサイル開発をこれ以上容認しない点を強調した。専門家らは一連の発言について、大統領が北韓の金正恩政権の交代を宣言したという見方を示した。だとすれば政府は、金正恩を権力の座から引き下ろす策を持っているのか。最も簡単な方法は、最高権力者の除去である。過去にも敵の指揮部を制圧した少数の精鋭軍が、巨大な軍隊を瞬時に崩壊させた例は珍しくない。韓米による金正恩の「斬首計画」問題を診断する。(ソウル=李民晧)

合同訓練 異例の公表

 「金正恩斬首作戦」をめぐる韓国と米国の動きは目まぐるしい。在韓米軍は2月に入り、第1空輸特戦団と第75レンジャー連隊が韓国に到着したというニュースをリリースした。米軍が、特殊部隊の所在を公表するのは異例のことだ。この部隊の訪韓が注目されたのは、隊員が敵の要員を暗殺する「斬首作戦」を実行してきた経歴を誇っているからだ。時を同じくして国防部は、3月7日に始まるキーリゾルブとトクスリ訓練(韓米合同軍事演習)で、斬首作戦訓練も実施になると発表した。17日には、米国の戦略兵器F‐22ステルス戦闘機編隊(4機)が韓国上空に飛来し、韓国空軍のF‐15K編隊と在韓米軍のF‐16編隊が計12機で戦闘機の連合作戦飛行を実施した。
 これに先立ち米国は、特殊部隊の「斬首作戦訓練」の様子が収められた映像を公開している。
 韓国内の北韓専門家の間でも、「金正恩斬首作戦」の必要性を唱える声が上がっている。国会では、セヌリ党の河泰慶議員が、朴槿惠大統領の任期内に北韓の政権交代を成し遂げなければならないと述べ、「斬首作戦」を提案した。ほかにも「ステルス機や無人機で斬首作戦を考慮する価値はある」(金泰宇・元統一研究院長)、「東倉里、豊渓里、寧辺の核施設などを精密に打撃しなければならない」(李東馥・北韓民主化フォーラム代表)という主張が出ている。
 金正恩の斬首、つまり暗殺は、北韓政権を崩壊させて苦しむ住民を解放するための近道であることには間違いない。ただ、いくら精鋭がそろっているとはいえ、それは口でいうほど簡単ではない。方法はあるのか。
 米国は、特殊部隊を派遣してオサマ・ビン・ラディン斬首、イラクのサダム・フセイン捕縛など、「敵」のトップを除去した実績を持っている。しかし、金正恩はビン・ラディンやフセインに比べて強力な軍に守られており、60年以上戦争に備えている。過去に米特殊部隊が成功させてきた作戦とは次元が異なるという分析だ。
 米軍でも「斬首作戦」を実行できる部隊は限られている。デブグルー、デルタフォース、グリーンベレーなどだ。デブグルーは、「世界最強」との呼び声高い米海軍の特殊部隊「ネイビーシールズ」の中から、さらに選ばれた精鋭からなる対テロリスト特殊部隊だ。デルタフォースは、米陸軍特殊部隊の分遣隊である。対テロ戦を主な任務とする。
 今回韓国に入ってきた第1空輸特戦団は、グリーンベレー部隊のメンバーだ。ゲリラ戦から後方かく乱まで担う、精鋭中の精鋭だ。米国は、特殊部隊の動向を秘密としているが、今回在韓米軍司令部は、グリーンベレーの隊員たちが韓国に来たと発表した。在韓米軍司令部は、米軍特殊要員が韓国陸軍の特殊戦司令部や、海軍特殊旅団「UDT」などの特殊要員たちと合同訓練を実施する予定であることも隠さなかった。
 では、はたして「斬首作戦」は実行可能なオプションなのか。金正恩が蜘蛛の巣のようにはりめぐらされた地下100メートル以上の通路に逃げ込んでしまったら作戦の実行は不可能になる。バンカーバスター(地中貫通爆弾)やスマート爆弾(精密誘導弾)で地下バンカーを打撃することも、耐衝撃コンクリートで作られた地下通路に効果を発揮できるかはわからない。
 作戦成功のキーポイントは、最終的にはヒューミント(人的情報源)を持っているかどうかにかかってくる。北韓の内部協力者を介して、金正恩の動線まで把握する高級情報があるかどうかに成否は帰結するだろう。ヒューミントだけは対北情報力で圧倒的だと自らを評してきた韓国政府だが、北韓の4回目の核実験を事前に把握していなかったという情報が流れている。最近ではそこまでの情報力はないという自嘲の声も聞こえている。「斬首作戦」は、米軍のハイテク兵器と韓国の情報力が結びついてこそ実行可能になるという指摘が説得力を得ている理由だ。
 敵首脳の「斬首作戦」は、情報、監視、目標の捕捉、偵察能力がすべて揃ってこそ可能になる。米軍の作戦遂行能力は、偵察まで可能となった段階であれば、いつでも10分ほどで作戦を完了できるほどの水準といわれている。まずは最初の段階である情報を取得することがカギといえる。


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