6日の核実験後、韓半島では南北間で心理戦が激化している。韓国軍はすでは対北拡声器放送を再開したが、前線地域だけでなく北韓全体に拡大・多様化すべきとの声が上がっている。北韓側も韓国側に対応のビラを飛ばしたが、すでにサイバー空間に氾濫している「従北サイト」に比べて効果はない。問題は心理戦の物量作戦で劣勢に立つ北側が、対南挑発をどう拡大するかだ。専門家らは最もありえるシナリオとしてサイバー攻撃を挙げ、実際に韓国内では攻撃が確認された。サイバーテロ防止法制定は韓国の急務だ。(ソウル=李民晧・東京=溝口恭平)
ソウルで発見の対南ビラ、効果薄?
北韓に向けた心理戦の手段を拡大する必要があるという声が韓国で高まっている。現在、韓国軍は前方部隊による拡声器を用いた対北韓心理戦を実施している。それだけでなく、ドローンや無人機を利用したビラ散布、長波ラジオ放送や電光掲示板など手段を多様化させ、より多くの北韓住民に韓国側のメッセージを届けなければならないということだ。
韓国軍は、10台の固定式拡声器と6台の移動式拡声器で対北韓心理戦を進めている。問題は、拡声器の最大可聴範囲が昼間で10キロメートル、夜間でも20キロメートルで、前線の北韓軍以外には届かないという点だ。
対北ラジオ放送「自由の声」も、短波を使っているため北韓の一般住民が聴取するのは困難だ。無人航空機やドローンで宣伝ビラを散布し、ラジオもAM放送に変え、より多くの北韓住民が聞けるようにしなければならないとの提案が出てくる理由だ。
さらに一歩踏み込んだ提言もある。北韓地域で韓国の放送が受信できるように、小型の高性能ラジオを風船で大量に送るべきとの声だ。軍はこのような作戦の再開も検討している。
対北心理放送では、「金氏王朝」と住民を分離するため、金正恩らによる北政権内の粛清問題と金氏王朝の家系などを伝えている。今は大半の北韓住民が韓国の方が豊かであるという事実を認知している状態だ。今後は、北側で韓国からの情報を遮断・監視している保衛部などもターゲットにすべきだ。
一方、韓国軍が対北拡声器放送を開始した後、それまで何の反応も示していなかった北韓側も反応を見せはじめた。首都圏近郊で発見された、対南宣伝ビラだ。
ビラには「戦争の導火線に火をつけた」など、朴槿惠大統領を非難するフレーズや合成された写真が載せられていた。韓国軍合同参謀本部によると、18日午前までに北韓が散布した対南ビラは100万枚に達する。発見されているのは主にソウルと京畿道の北部、坡州や高陽市だ。
ただ、北の宣伝ビラに対する韓国国民の反応は、きわめて小さい。道に落ちているビラを拾う人はほとんど見られず、関心もまったくといっていいほどない。むしろ軍では、兵役期間の延期を希望する兵士が1000人を超えている。北韓の挑発は動揺を誘うどころか、韓国軍の結束を強める結果になったようだ。
ビラの多くは無人機や風船で飛ばされてきた。実際に軍当局は13日、北韓から飛来した無人偵察機が西部戦線の軍事境界線を侵犯しようとしたため、威嚇射撃を実施した。
警戒すべきは、こうした無人機がビラではなく生物・科学兵器テロに使われることだ。軍関係者からは、威嚇射撃ではなく、即座に撃墜すべきとの声も上がる。
一方、ソウル市の聖水大橋付近で発見された1000枚以上のビラは、出所が定かでなく、公安当局が捜査に着手した。北韓に内通している韓国内のスパイが印刷してまいた可能性も排除できない。
北韓外務省は15日、スポークスマン談話形式で「(韓国の)心理戦放送再開は、私たちの並進路線にともなう通常の工程とは、なんら関連もない突拍子な挑発だ」と主張した。8日の対北放送開始後、北韓当局が発表した初の談話だ。