能登半島沖で発見された北の漁船を見た地元漁師は「私ならとてもじゃないけどあの船で漁に出ることはできない」と話す。船発見時の状況や装備について、現地で取材した。(溝口恭平)
11月27日、能登半島は早朝からひょうが降る荒天だった。雷鳴が遠くで響き、海面は強風で波立ち、この地方ならではの波の花も舞っていた。
初冬の雷は、この地方では「ブリ起こし」と呼ばれる。豊漁の前兆であると信じられ、漁師は腕を撫しながら波が収まるのを待つ。
外海は荒れる。20日に輪島沖で漂着・漂流しているのが見つかった北韓漁船も、荒波の中で遭難したのだろうか。
船が引き揚げられた漁協の竹田一郎運営委員長は、「今年は比較的海は穏やかだったんですよ」と話す。日本で最も漂流・漂着件数が多い北陸。3隻が原型をとどめていたのは、波が穏やかだったからだと、過去に何隻もの大破した船を見てきた竹田さんはいう。
3隻のうち2隻は平底だった。
「湖や川など、波が立たない場所で使われる船です」
地元漁師の角谷静男さんはこう話す。
最初の船は沖合の定置網に引っかかっているところを発見された。鯨か何かだと思ったが、近づいてみたら転覆した船だった。窓から人の体の一部が出入りしているのが見えて海上保安本部に通報。その後、2隻見つかった。遺体は計10体にのぼった。
北韓の漁船を見た角谷さんは、通信機器がないことに驚いた。日本では通常、数隻が船団を組んで出港し、互いに情報を共有しながら操業する。嵐の接近などは重要な情報の一つだ。
その次に注目したのが、3隻中2隻のエンジンが流出していたことだ。
「船体はほとんど原型を保っているのに、エンジンがなくなっているでしょう。普通考えられないですよ。おそらく簡単に積み下ろしできる、小型で非力なモーターだったんでしょうね。嵐が接近してきても、逃げ切れるようなエンジンではなかったと思いますよ」
最後に角谷さんに聞いてみた。あの船で漁に出るかと。とたんにかぶりを振った。
「とてもじゃないけど、あんな船じゃ怖くて乗れないよ」
今回遺体で発見された10人も、角谷さんと同じ思いだったのではないか。いや、10人だけではない。誰にも見つかることなく海の底に沈んだ人はもっといるはずだ。