「威厳と良心をもって行動していこう」。8日に投開票が行われたミャンマーの総選挙で、勝利を確信した野党NLDの党首、アウン・サン・スー・チー氏が支持者に語りかけた。正式な集計は出ていないが、勝利は確実と見られている▼群衆は「母なるスー・チー」と叫ぶ。その熱烈ぶりを抑えるように、冒頭の言葉を発した。NLDは今から25年前の総選挙で大勝したが、「国の安全を優先する」と軍事政権は権力を譲らず、民主化は達成されなかった▼ミャンマー民主化への期待は高まる。現政権の指導者は、四半世紀前の軍人よりは穏健と見られている上、国を開放する方向に舵を切っている。メディアもおおむね楽観的な観測だ▼ただ、ここ数年、民主化にともなう混乱が中東やアフリカで顕著になっている。「アラブの春」の揺り戻しだ。ミャンマーでも同じことが起きないとは限らない。いや、危険な香りはすでに漂っている▼ミャンマーの憲法上、外国籍の親族(スー・チー氏の息子2人は英国籍)がいる人は大統領になれない。しかしスー・チー氏は、「私は大統領の上に立つ」といってはばからない。民主化運動家としての実績はあっても、政治家としての手腕にはまだ疑問符が付くスー・チー氏である。仮に優れた手腕を発揮できたとしても、超法規的職位を得た前例が、彼女の引退後に混乱を招くこともあろう▼絶対善のように語られがちな「民主化」だが、達成するだけでは不完全だ。歴史はそれを定着させることの難しさと重要さを説いている。