【座談】分断70年・建国67年<上> 北の解放民族統合

正しい歴史教育から 
日付: 2015年08月15日 00時00分

 今年は、大韓民国の建国67年と韓半島分断70年になる年だが、韓半島にはいまだ真の解放と平和が訪れていない。植民地と戦争を経験していない世代が同時代へ訴えたいメッセージは何か。植民地から近代国民国家への革命に成功し豊かな社会になった韓国が、北の同族にも一日も早く自由と繁栄を与えるためにはどういう覚悟が必要なのか、などを脱北者である金英姫博士と自由統一運動をしている韓国自由連合の金成昱代表に本紙論説主幹が聞いた。         (ソウル=李民晧)

 洪 韓半島分断70年・大韓民国建国67年を迎えて、統一韓国建設の主役世代の金成昱代表と金英姫博士に、現実認識や統一に対する思い、歴史観などを忌憚なく話していただきたい。
金博士の博士論文は、統一日報社が日本語に翻訳(『暴政による人間の退化』)したが、英語翻訳本も出た。
金英姫 英訳は「時代精神社」から出ました。「金氏王朝」の暴政を告発するため印税なしで配布するようにしました。主に国内外の図書館などに贈呈しましたが、私の研究結論に対して今のところ反論・反駁などは全くありません。
 金博士の著述は、スターリン主義を継承した「主体国家」に対する文明史的審判です。分断を見る歴史観や南・北韓の現状などに対する 二人の考えを聞きたい。
分断70年で荒廃した北韓
金成昱 統計と科学的事実関係に立脚して、そして南北関係という窓を通してみると、植民統治による被害は南韓がはるかに大きかった。1945年8月の時点で、北韓の1人あたりの鉄道の長さは日本よりも長く、発電量などの産業能力は南韓より圧倒的優位だった。だが、70年後の北韓は荒廃した。北の政権、体制の弱点と矛盾が蓄積されて北韓を砂漠にしたのだ。
南韓は北韓より不利な条件だったが、理念や体制、政権の優位性によって、韓半島の歴史上、最高の国民国家を建設し、GDP世界15位の国家に成長した。南北の差は、理念と体制、特に、指導者の教養の差だったと言うしかない。
統一で「規模の経済」が達成
ところが、多くの人々が分断による致命的な被害に鈍感だ。理由は2つ、無知と利己心だ。統一したら領土と人口が増え、資源が確保される。それは単純な足し算ではなく、7500万の人口と6983兆ウォンと推定される北韓の地下資源によって、強力な「規模の経済」効果―体が大きくなるため倒れない―が発生する。韓半島はドイツの統一より高い次元の統一ができる。大陸への進出だ。だが、統一の最大の正当性と名分は北韓住民に自由を与えることだ。
「無知」より深刻な問題が利己心だ。韓国の知識人層は分断構造の古い殻を破ることを恐れ積極的に反発し、反対論理をたくさん作る。その典型が、統一費用論や平和維持、そして民族共助を云々する北韓式論理だ。甚だしくは一部の「保守的」知識人までも現状脱皮を嫌い、統一を回避する。無知と利己心を破れるのが統一への鍵だ。
 金英姫博士は韓国に来て何を感じましたか。
金英姫 北韓では、日本帝国主義が北韓の資源を略奪するために工業施設を建設したと学んだ。分断の被害は、南北共に消耗性費用がかかり過ぎる点、例えば、北の国防費は1950年代から1970年代まで30~40%だった。情緒や心理的面では、中学生になると「赤い青年近衛隊」に入り射撃訓練はもちろん、敵の飛行機を防御するための訓練までする。大学では6カ月間も教導隊訓練がある。学校教育のすべてが軍事化されている。住民は自宅に戦時用リュックや備蓄米まで確保せねばならず、常に心理的に萎縮され日常が辛く大変だ。
統一されるまでは平和は絶対に来ない。北韓に『平和は宿らない』という映画があるが、人々の性格まで異質化され情緒的な問題が人間関係にも現れる。
 日帝の資源略奪、収奪はいつから教えるか。
金英姫 小学校から革命歴史として日帝と米帝を教える。日帝の工業化問題は中学校で教える。だが、日帝の植民統治を憎悪しながら、日本製品があふれた。平安南道、黄海南道など、すべての貿易局が日本からいろんなものを輸入していた。
 日本は敗戦後、独立してから、反韓政策基調を持つようになるが、北側がそう工作した。特に、北韓人口の1%程度だが経済活動規模が北韓のGDPの2・5倍(80年代を基準に)だった朝総連の存在目的もまさにそこにあった。
金成昱 「統一される前には平和が絶対来ない」というスローガンは今も使っているのか。北韓に金さえ与えれば平和が来る、という主張は、「統一されるまでは平和が絶対来ない」というスローガンで完全に破綻する。これは韓国人が感じる平和と7500万の平和が違うことを物語る。
北、統一の前には平和はない
金英姫 『平和は宿らない』は、1980年代の映画で、西海で南北韓の艦艇の交戦内容だった。
 南北の異質化は想像以上に深刻だ。大韓民国は素晴らしい国になったが、豊かさの危機に陥った。北韓は封建国家に戻り、住民が肉体的にも劣化した。北韓解放・統一は、日本の植民地支配で日本人化された韓民族をもって自由民主主義建国革命に挑戰した李承晩大統領のように、精神的内戦で脆さを露呈する大韓民国が、一世紀以上も奴隷状態の同族を解放する課題と言える。統一のとき、自由民主主義の価値と自由市場経済への確信はどう教えるべきか。
金英姫 韓国に来て12年になるが、まだ個人主義が私の心の中にない。「私がよくなれば、他の人は貧しくなる」という思いがする。
金成昱 今まで「太陽政策の平和戦法」論理の核心は徹底して利己的だ。自由民主主義と市場経済の教育も重要だが、歴史教育がもっと重要だ。脱北民に接して感じたのは、金日成に対する歪曲された認識、概念が深く残っていることだ。
金英姫 金日成が抗日はしたが、平壌が主張するようなパルチザン闘争などはなかったと教えるべきだ。中国共産党の東北抗日連軍の末端指揮者だったと。
金成昱 金日成の神話が崩れないと自由民主主義市場経済も入らない。
金英姫 統一すれば金日成神話もなくなる。韓国に来て北で教えられたのが間違いだったことが分かるように。
「金日成神話」が南北統合の最大障碍
金成昱 中国共産党は金日成の抗日武装闘争を許さなかった。「普天堡戦闘」のような補給闘争は断続的にしたが、抗日武装闘争と言えるものではない。この誇張と歪曲を直す歴史認識の転換が必要だ。
 そもそも「解放」と言えるものか。解放の意味が歪曲されている。1945年8月に韓半島は南北に軍政が敷かれた。韓半島の真の解放は北韓が解放された時だ。
金成昱 クリスチャンは主体思想などは拒否するが、多くの脱北クリスチャンの胸の中に金日成が残って、金日成に親という感情を抱いている。金日成を全否定しないと、南北が統合されるとき深刻な障害になる。理念より歴史統合教育がもっと重要だ。北韓同胞に対して正しい現代史の教育を先行させ、それが分裂した韓国の歴史認識を牽引することも考えられるのではないか。
洪 自らを客観化するのは容易なことでないが、特に、政治家たちがまともな歴史観を持っているか疑わしい。普遍的な教養に基づいた歴史観が必要だ。
金成昱 脱北者たちが金日成を捨てられないのは、自尊心の問題かも知れない。北の大量餓死は金正日のせいで、「北韓が元々はそうでなかった」と。それが金日成への郷愁につながるのではないか。北韓住民は金正日と金正恩は罵倒しても、「父親の首領」の話が必ず出る。これをどう絶つか。
金英姫 金日成時代には食べることはできた。パルチザン闘争とは別に、金日成の先祖と金正淑などを尊敬できる偉人に神格化し徹底的に洗脳した効果だ。
金成昱 ドイツの統一後の東西間の葛藤は、東ドイツ地域の飛躍的な発展で解消されている。韓半島は身体の変化まで生じているが、もっと決定的な問題が金日成の神格化による現代史の歪曲だ。これが整理されないと、南北が形式的に統合されても別の対立と分裂が懸念される。
金英姫 経済的格差が解消されれば、問題の多くが解消される。貧しい人々ほど金日成に執着するようだ。
 韓国は分断70年間、北との対決と同時に、世界と先進国と競争してきた。北韓は閉鎖空間の中で、専ら過去との比較、つまり、植民地時代など前近代と比較する愚民化の洗脳ばかりをしてきた。同時に、南北の今日は、李承晩・朴正熙大統領の教養水準と金日成・金正日の無教養と暴悪さとの差とも言える。
金成昱 統一のため、李承晩・朴正熙大統領を同時になせる指導者が欲しい。
 歴史を正しく理解するには、高い教養が必要だ。非キリスト教文明圏の中で共和制の自由民主主義建国革命で先進化に到達した唯一の国の大韓民国の礎を築いたのが李承晩と朴正熙大統領だ。朴正熙は李承晩大統領を「あなたは韓民族のモーセだ」と追悼した。
金英姫 私の経験では脱北者だけでなく、将来、北韓同胞に対する歴史教育には漫画など視覚化資料も効果的だ。
統合は歴史教育で
金成昱 北韓住民をどう大韓民国に統合させるか、歴史教育はどのようにし、理念教育はどうするかなどを政府が準備せねばならない。
金英姫 私は統一準備委員会で韓国主導の北韓再建を研究しているが、北はもはや計画経済に戻れない。住民の思考が変わり、市場経済へ行くしかない。
 李承晩大統領が建国革命に取り組んだとき、韓半島で高卒以上の人材は2万6000人だったという。彼らの多くは、6・25戦争で死に、北に拉致された。激動の時代の指導者に求められる徳目はビジョンと決断力、些細なことにこだわらず大局を捉える能力だ。
金成昱 統一は突然やって来る。金正恩体制に一銭も渡さないのが統一を早める近道だ。朴大統領は核問題の解決なしには経済協力はないと言っている。
金英姫 平壌をはじめ、北の全土に26個の特区が設定された。金正恩政権の不安定さは経済のためではない。北韓は昔から「蚊帳の論理」だが、外部から多くの企業が入れば、蚊帳は無力化される。
金成昱 李明博政権は開城工団など経協に9兆ウォンを使った。だが、李前大統領は開城工団が政権延長手段だと自叙伝で指摘した。乳幼児への人道支援も特権層に専用され、医薬品も中国に売ったと述懐した。対北支援は悪の体制を延長させる。


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