北の粛清 党組織指導部が主導

姿消す「摂政」たち きっかけは李前大統領の著書
日付: 2015年05月20日 00時00分

 人民武力部長の銃殺説が伝えられるなど、粛清の嵐が吹き荒れているといわれる北韓。韓国政府情報筋に近い関係者によると、対南宣伝工作などを行う統一戦線部の幹部たちが、「検閲」を受けたという。検閲とは身辺調査のことで、少しでも嫌疑をかけられれば、新たな粛清の対象にもなりかねない。労働党の高位幹部たちが粛清や検閲を受けているような状況で、平壌に日朝交渉を進めるほどの余裕はまったくない。

金英徹局長
 きっかけは一冊の本だといわれる。李明博・前韓国大統領が2月に出版した「大統領の時間」だ。大統領在職時の秘話について触れた個所が多く、特に外交に多くのページが割かれている。「秘密を明かしすぎ」との批判を受けたことからわかるように、南北間の詳細な交渉過程などもつづられている。
李前大統領は、統一戦線部の金養建部長兼対南書記が、当時の韓国労働部長官だった任太熙氏に支援を求めた場面も描いている。中国に支援を願い出たと思われる描写もある。「検閲」が行われたのは、誰が虚偽の報告や情報を漏らしたのかを把握するためだろう。
党の高位人士に対する「検閲」を行うのは、党の組織指導部と、対外諜報・工作活動を担当する偵察総局といわれている。組織指導部には、対南宣伝工作などを行う労働党統一戦線部の機能が一部移管されたといわれている。
国防委員会傘下の偵察総局の金英徹局長は、09年に局が発足するのと同時にトップについた。2度にわたり階級を下げられたことがあるが、局長ポストは維持している。
北韓は今、労働党組織指導部による集団指導体制なっているといわれる。この組織指導部が、すべての粛清を企画・推進している。
組織指導部が統一戦線部の金養建部長や元東淵・第1副部長、孟ギョンイル副部長らに対し、検閲が行われたという。韓国の中央日報は情報関係者の話として「元東淵・第1副部長が、今は海外同胞担当副部長に左遷された」「海外同胞業務を担当した孟ギョンイル副部長は所在が把握されず、粛清された可能性がある」と伝えている。実務者に対する検閲は現在も続いているとみられる。
北韓では金正恩体制に入り、金正日が「摂政」として置いた大物の粛清が相次いでいる。軍の総参謀長だった李英鎬、「ナンバー2」だった張成澤、4月末に銃殺されたとされる玄永哲・人民武力部長らだ。
張成澤は、強いコネクションを持っていた中国で「反党・反国家犯罪」を画策したため粛清されたといわれる。玄部長はロシアとのつながりが強く、9日にモスクワで行われた対独戦勝記念式典に出席したばかりだった。
党組織指導部による粛清で、外国における彼らの行動を監視し、把握できる立場にいるのが金英徹局長だったということになる。


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