朝総連は閉鎖的組織、つまり、秘密主義の組織であるが、過去に2回、公式便覧を出している。朝総連結成35周年と50周年のときだ。
この便覧は、朝総連の本性と根源的矛盾を如実に示している。それどころか、朝総連自身が自分たちの悪行を告白する資料といっていい。おそらく朝総連自身もこの矛盾に気づいていると思うが、どうにもできないのが悲劇だ。
朝総連は自らのアイデンティティを「共和国の海外公民団体」と規定している。北の「海外公民」を自慢に思う者もいるだろうが、「共和国の海外公民団体」とは何を意味するのか。結論からいえば、朝鮮労働党の手先であるという告白だ。
「共和国」という表現について、世界にどれだけ北を「共和国」と思う人がいるだろうか。スターリン主義が変形した「金氏王朝」の全体主義独裁を「共和国」といえるだろうか。ちなみに北の憲法の名称は「金日成・金正日憲法」だ。前文にそう明記されている。
北の憲法11条は、「朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮労働党の領導の下ですべての活動を進行する」とある。その朝鮮労働党を領導するのが首領だ。つまり朝総連は、朝鮮労働党(=首領)の命令を受ける細胞組織なのだ。
北は韓民族を「金日成民族」と呼ぶ。そして、過去の王朝であるかのように「主体」を年号として使っている。
朝総連は特に、韓国軍による市民の大量虐殺だという光州事態(1980年)、韓国の自作自演と主張する大韓航空爆発テロ(1987年)、総連から特定政党への献金が指摘されたパチンコ疑惑(1989年)などについて力を入れて説明している。これらは北の謀略や犯罪を擁護し、責任を韓国に転嫁するための工作だった。
朝総連は、日本社会の差別と闘ってきたという。しかし、朝総連をもっともひどく差別してきたのは北韓体制であり、朝鮮労働党だ。そして差別は今も続いている。
北送事業(帰国事業)で北に送られた在日同胞は、北韓では最下位の「出身成分」に置かれた。当局の厳しい監視対象にもなっている。朝総連は自分たちが「母なる祖国」の「社会主義の建設に寄与した」と自慢するが、今の北韓は社会主義国と呼べるだろうか。そして、今まで行ってきた支援はどこへ消えたのか。
朝総連が力を入れてきた宣伝事業は完全な嘘であった。しかし反復的な洗脳で、彼らが「同胞」と呼ぶ人たちの認識能力や比較能力を奪った。
朝総連はこの60年間、平壌には盲目的忠誠を誓い、韓国に対しては破壊と謀略工作を行ってきた。在日同胞には洗脳による「愚民化」を徹底した。彼らを日本社会から隔離して、偏狭な民族主義の世界に縛り付けようとした。便覧は、朝総連が「金氏王朝」に盲従する集団であることを告白しているのだ。これを悲劇というべきか喜劇というべきか。
興味深いのは朝鮮新報と朝鮮通信社の任務を説明した部分だ。
朝鮮新報社は『人民朝鮮』を英語、フランス語、スペイン語で発行して世界120カ国・地域に普及してきたという。平壌は日本の朝総連を基地として、全世界に向けての情報戦略に利用してきたことを物語っている。
朝総連の工作活動は、日本社会に多くの協力者がいたからこそ可能だった。朝総連を庇護する動きは今も続いている。
(続く)