仁川アジア大会 滞在費求め?北、応援団送らず

韓国へのゆさぶりとの指摘も
日付: 2014年09月10日 00時00分

 19日に開幕する仁川アジア大会に北韓の選手団が参加する。選手150人を含む273人の選手団が11日から飛行機で直接韓国入りする。北韓が大会に参加することは冷え込んだ南北関係に転機をもたらすきっかけになるとの期待が広がる一方、韓国内で対北韓政策をめぐる対立が生じると警戒する声も少なくない。南北間で駆け引きが続いている北韓の「美女応援団」派遣をめぐってはなおさらだ。北韓のアジア大会参加は韓国にとって得なのかそれとも損なのか。

釜山アジア大会当時、金海空港から韓国入りした北韓選手団
◇11日から韓国入り

大会組織委員会によると、北韓選手団は11日から6回にわたり、韓国入りする。11日に94人が先発隊として入る予定で、16日に87人、19日に33人、22日に41人、28日に7人が順次仁川入りする。北韓選手団に含まれている朝鮮新報の記者ら約10人は日本から来る。北韓に戻る日は仁川の現地で最終確定するという。
先発隊は11日午後6時に高麗航空便で平壌を発ち、同7時に仁川空港に到着する。北韓五輪委員会のチャン・スミョン代表をはじめ、役員、医療陣、記者団、サッカー選手らが含まれている。韓国側担当官庁の統一部は、北韓選手団の大会参加が円滑に進むよう支援する計画で、組織委から北韓選手団の訪韓承認申請が入り次第、迅速に関連手続きを進めるとしている。
韓国で開かれた国際スポーツ大会への北韓選手団の派遣実績を見ると、最近では2005年の仁川アジア陸上競技選手権、2003年の大邱ユニバーシアード夏季大会、2002年の釜山アジア大会などがある。いずれも応援団とともに参加しており、大会を盛り上げるのに一役買ったと評価されている。
◇駆け引き続く
特に「美女軍団」と呼ばれる女性応援団はこれまでの大会で大きな注目を集めたことから、今回も国内外で参加するかどうかに関心が高まっている。ただ、今のところ応援団の派遣をめぐっては、南北間で駆け引きが続いている。
北韓は当初、「南北関係改善の重要な契機だ」として、過去最大規模となる700人の選手団と応援団を派遣することを表明していたが、先月末に突然、応援団の派遣を取り消すと発表した。統一部によると、北韓五輪委員会の副委員長は朝鮮中央テレビに出演し、「韓国側が応援団の規模や応援用の国旗の大きさについて言い掛かりをつけた」と、7月の南北実務協議での韓国側の姿勢を批判。大会には予定どおり出場するものの応援団の派遣を取り消す意向を示した。
朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」によると、応援団の派遣見送りが公表された背景には、7月の南北実務協議で韓国が北韓を侮辱し、韓国大統領府が女性応援団の韓国派遣を嫌がったことがあるという。だが、最も大きな理由は応援団の滞在費用を求められたことにあるとみられる。
国際スポーツ大会に派遣する応援団の滞在費用は基本的に派遣国が負担するのが慣例となっている。しかし、韓国はこれまで北韓応援団の滞在費用の多くを負担してきた。これまで韓国政府が負担した滞在費用は1人あたり約160万ウォン。太陽政策を進めた金大中政権時に開かれた2002年の釜山アジア大会では応援団の滞在費用として4億8300万ウォンが計上された。
ただ、今回韓国は「当時(2002年)とは南北関係の状況などが大きく変わっており、原則的に応援団の滞在費用は北韓が負担する方向で協議を進める」(統一部関係者)との立場だった。北韓はこれを「侮辱」と受け止め、応援団の派遣取り消しを発表したとみられる。
◇韓国内での評価は
韓国で女性応援団をめぐる評価は分かれている。南北交流を深めるきっかけになるとの見方がある一方、応援団による融和ムード演出で、韓国内で対北韓政策をめぐる対立が生じると懸念する声もある。
大会を主催する仁川市と組織委は応援団の参加が大会の成功のために不可欠との立場だ。現に、応援団派遣の取り消しが発表されてからチケットの売れ行きが伸び悩んでいるという。仁川市は数十億ウォン程度の滞在費負担で、数百億ウォンの利益を得られると主張。応援団の受け入れを求めている。
ただ、政府は応援団の滞在費用を全額負担するのは難しいとの立場だ。韓国は仁川アジア大会のほか、2015年に光州ユニバーシアード夏季大会、2018年に平昌冬季五輪を控えており、なし崩し的な支援につながりかねない。それに融和ムードを演出する北韓側の宣伝攻勢も警戒せざるをえないだろう。
元北韓高官の脱北者は「美女応援団は北韓に対する韓国国民の敵対感をなくし、安保意識を薄めるための心理戦の一環」と証言している。
2002年の釜山アジア大会の時、初めて派遣された女性応援団が大きな関心を集めたのは記憶に新しい。宿泊先の万景峰号が泊まっている港には応援団の女性を一目見ようと、多くの市民らが集まり、「結婚してください」というプラカードを掲げ、女性応援団を追いかける若者も出てきた。メディアも連日、女性応援団の動きを大きく報じるなど、大会そのものよりも注目を集めた。
その結果、2002年6月に北韓警備艇の奇襲攻撃で発生した第2延坪海戦で高まった北韓警戒論は一瞬で消えた。同海戦で韓国兵6人が死亡し、19人が負傷したにもかかわらずだ。これこそが北韓の狙いだと、元海軍司令官の金成萬氏は指摘する。
◇挑発続ける北韓
北韓は、アジア大会への選手団派遣は南北間の交流を深めるためだと主張しながら、6日にも南東部の元山付近から北東方向の東海に向け、短距離ミサイルとみられる3発の発射体を発射した。今年に入り19回目の発射だ。韓国軍合同参謀本部によると、8月14日と9月1日に発射した発射体と同じ新型ミサイルの可能性があり、性能向上を目的に実験を繰り返している可能性がある。
韓国軍によると、北韓は金正恩体制に入り、非武装地帯(DMZ)内での軍事訓練を強化し、北韓軍は今年だけで5回軍事境界線を越えて韓国領土に侵入している。こうしたことから韓国軍は和戦両様の構えも見せる北韓の動きを警戒すべきと指摘する。 
アジア大会への応援団の派遣を巡っては、北韓はこれまでもいったん派遣を決めておいて、直前に取り消したことがある。今回の動きも韓国に対して揺さぶりをかけ、より多くの支援を引き出そうとする動きの可能性がある。野党や一部の市民団体は南北関係を発展させるため、北韓応援団を受け入れるべきだと政府に求めている。確かに膠着状態にある南北関係が転機を迎えるきっかけになる可能性はある。ただ、大会参加を表明し、交流拡大を謳いながら、挑発を続ける北韓の動きを冷静に見守る姿勢も求められる。


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