金正恩体制下の北韓 疲弊する経済

金正恩の足元も不安定
日付: 2014年08月15日 00時00分

 中国からの原油輸入が途絶えるなど、経済的な苦境が報じられている北韓。昨年末に「ナンバー2」と見られていた張成澤を処刑した後、この粛清が一因で中国との関係悪化が伝えられてきた。一方、日本との間では関係改善の動きが見られる。北韓は域内にいる全日本人の身元調査を行うため、7月に特別調査委員会を設置。日本は委員会の設置を受け、国連制裁とは別に実施していた独自の制裁を解除した。韓国との関係においては、朴槿惠政権の「韓半島信頼プロセス」に一顧もしない姿勢を見せている。北韓としては日本からの支援引き出しに活路を見出したいが、韓米は日本の”独走”による対北協調の乱れを憂慮している。日本側もそれを十分に理解しており、簡単に援助はできない状況だ。

 
6月24日、黄海道のミサイル部隊を視察する金正恩。北韓軍はこの日、短距離ミサイルの発射実験を行った
国家情報院の李丙琪院長は7月31日、国会情報委員会で、北韓内で7月に新5000ウォン札が発行され、旧紙幣との交換作業が進行中であると明らかにした。北韓では09年末に「貨幣改革」という名のデノミ(通貨切り下げ)が行われ、旧100北朝鮮ウォンに対し新1ウォンのレートで交換が行われた。
本来デノミは、インフレ対策として行われることが多いが、当時は市場の拡大により台頭しはじめた中産階層(個人商売で富を蓄えた個人と新興富裕層)が自宅に保管している「タンス預金」を狙い撃ちしたものだった。
今回も新紙幣との交換という形で、庶民から現金を回収しようという理由なのかもしれない。紙幣のデザイン変更が理由ともいわれるが、交換を求める市民で混乱が起きたという。それほど北韓の生活は苦しくなっているようだ。
北韓に親戚がいるある在日韓国人女性は、親類とのやり取りの中で「金正恩体制になってからも生活は厳しくなっているようだ」と話す。女性の親戚は比較的安定した職業についているというが、それでも日本からの仕送りがないと生活は厳しいという。
北韓は近年、各国からの経済制裁を受けている。その柱が、06年の核実験とミサイル発射の後と、09年の核実験後の国連安保理決議だ。安保理決議は、主に兵器開発に関する物資の輸出入や資金の流れを止める内容だった。食糧や資源などの支援は、中国や韓国の一部市民団体などによって続いてきた。
ただ、今年に入ってから中国からの原油輸出が止められたとの報道があり、経済状態は悪化しているとの見方が強い。支援物資は住民全体に行き届かず、一部の党幹部らを潤しているだけだという声もある。
韓国は2010年5月の天安艦爆沈事件を受け、「5・24措置」を実施している。▼北韓船舶に対する済州海峡の全面不許可▼南北交易の中断▼韓国国民の訪朝不許可▼対北心理戦再開などだ。これにより、年間約3億ドルの外貨収入が断たれた。開城工業団地も、一時的な操業停止の後に再開されたが、北韓が手にする外貨は減った。
中国との関係悪化は、昨年12月の張成澤粛清以降だといわれる。中国との”パイプ役”といわれた張成澤が残忍な方法で処刑されたことで、中国側の態度が硬化したといわれる。
張成澤の粛清直後の今年2月には、昨年から台頭してきた崔龍海・元軍総政治局長に監禁説が浮上。ほどなく崔龍海は公の場に姿を見せたが、序列は党秘書に格下げされていた。
崔龍海の代わりに総政治局長に就いたのは黄炳瑞。今年に入ってから軍の中で序列を上げ、4月15日には大将に、そのわずか10日後の26日には金正恩の元帥に次ぐ次帥となった。6月の「金正日党事業開始50周年中央報告大会」のステージでは、崔龍海の”指定席”だった金正恩の右側に、黄炳瑞局長が座った。
北韓潜水艇の魚雷攻撃によって撃沈された天安艦

「ナンバー2」の相次ぐ粛清や降格により、金正恩の権力基盤は固まったとの見方があるが、むしろその足元は落ち着いていない。北韓では金正日の死後、遺訓として金正恩を摂政らがサポートする集団指導体制がとられてきた。摂政とは金正恩の叔母にあたる金敬姫と、その夫の張成澤だ。しかし昨年末に張成澤は粛清され、金敬姫も表舞台からは長く遠ざかっている。
これについてある専門家は「労働党の組織指導部が背後でコントロールしている」と指摘する。組織指導部が張成澤と金敬姫を摂政の地位から退かせ、崔龍海も排除したと見ているのだ。
黄炳瑞は、もともと組織指導部の第一副部長の職にいたことが確認されている。また、「三池淵5人組」と呼ばれる、金正恩の側近グループにも名を連ねている。5人とも労働党所属だが、このうち組織指導部に属しているのは黄炳瑞と朴泰成だ。
三池淵5人組は、ほかの重鎮らと協議して張成澤の粛清を決めたといわれる。「ナンバー2」が相次いで粛清・降格した後も、大きな影響力を維持するものとみられる。組織指導部の影響力は強く、金正恩も絶対的な権力を握っているとはいいがたいと見る専門家は多い。
とはいえ、崔龍海の降格と黄炳瑞の台頭の背景には、金正恩に対する「忠誠競争」があったと見られている。崔龍海の降格理由は、裏金や女性問題、あるいは血統(崔龍海の父が抗日パルチザンを率い、金日成以上の功績を残したことから、血筋の正統性で金正恩と対抗できるため)だといわれる。それを察知した崔龍海が、金正恩に近い人物を通じて、自ら職責を辞す考えを伝えていたという。
辞意を伝えたといわれる相手は国家安全保衛部の金元弘部長。黄炳瑞とともに、金正恩の信任が厚いという人物だ。
金正恩体制になってから異例の出世を遂げ、軍内部から嫉妬による反感も勝っていた崔龍海だが、それでも軍の元老クラスからは目をかけられているという。一方の黄炳瑞は、党組織指導部を”代表”している。両者の忠誠競争を利用して、金正恩が権力の基盤を固める可能性もある。


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