昨年12月中旬、金正恩は、全世界が見守る中、彼の叔父の張成澤を残忍に処刑した。対南メディア「我が民族同士」は韓国政府の対応について「特大政治的挑発」とし、金正恩唯一体制を非難する勢力には「無慈悲な鉄槌」を下すと脅していた。そして機会があるたびに、今回の粛清は、「革命隊伍の純潔性を強化するためのもの」、「それ(粛清)は、誰がどうこう言える問題ではない」、「代を継いで続く革命は、自分にその根があり、血統がある」と述べた。では北韓がそこまで純粋であると主張している金正恩の「白頭血統」の主張は、はたして真実だろうか。
まず、金正恩は「万古逆賊」の家の出身である。彼の労働党幹部としての履歴書、家計図の最も近いところに位置していた叔父の張成澤の罪は「国家転覆陰謀、反党反革命的宗派行為、祖国に反逆した天下の万古逆賊」罪である。
張成澤は連行された4日後、弁護士、陪審員団もなく、1審の軍事裁判で上記の罪により即処刑された。北韓では幹部人事の際、特に党、保衛部、保安部の職員を選ぶときは、下級職員であっても直系なら8親等、母方は5親等までくまなく調べる。ここでわずかでも欠陥が発覚すれば脱落だ。つまり労働党第一書記の3親等(叔父)が逆賊になったのだから、金正恩の”首領”の資格は自動的に剥奪なのである。
また金正恩は、祖父の金日成が反対した核武装化に固執し、遺訓である人民大衆中心の金日成・金正日主義にも背いている。しかし、政治的な功績を積むための工事を強行し、23階建てのマンション崩壊事故が発生するなど、人民生活の向上はあまり見られない。非人間的行為に加え、金一家世襲の正当性が疑問視される部分だ。
次に、金正恩の母系には、「民族の反逆者」である脱北者がいる。母・高英姫の妹の高英淑、すなわち金正恩の叔母は、1998年に夫と一緒に米国に亡命した。「白頭血統」の家系図には、逆賊だけでなく脱北者もいるわけだ。生母の高英姫は、金正日の正妻ではない。在日韓国人、別名「在胞」であり、日本で生まれて10歳の時(1962年)に父親について北送船に乗り、北韓で万寿台芸術団のダンサーに抜擢。そこで金正日の目に止まったのだ。
母方の祖父、高璟澤が植民地時代に働いていた大阪の「広田軍服工場」は、極秘という文字とともに日本陸軍省の秘密文書の中に記載されていた。高氏はこの工場で、管理職にまで上がったことが知られている。金日成が事実上の結婚式を挙げさせ、北韓の幹部が公式に認めている金正日の妻は金英淑(第4夫人)だけだ。金日成は生前、高英姫が妻として認められていなかったため、金正恩の存在も認めていなかった。
つまり「白頭血統」を主張する金正恩の家計図は、「万古逆賊」である叔父の張成澤、「民族の反逆者」である叔母の高英淑、正妻ではない「在胞」の母・高英姫、親日派である祖父の高璟澤などが累々と連なっているのだ。抗日闘争をした「白頭血統」とはかけ離れているといえる。
北韓の真の「白頭血統」は、抗日闘争で金日成を凌駕した百戦錬磨の老将であり、人民武力部長を務めた崔賢、女性遍歴で批判は受けたものの金正恩のような複雑な家系や背景を持たない息子の崔龍海、権力世襲を批判した金正日の長子・金正男、金日成の絶対的な信任を受けた金正日の異母弟の金平一につながる。
金正恩が、彼らを牽制して排斥しつつも不安げな行動をとっているのは、自分に純粋な”血統”がないことを反証するものだ。金正恩が考えを変えない限り、真の「白頭血統」の資格を満たすことはなく、朝鮮王朝の燕山君、中国の秦の始皇帝の末子・胡亥と同じ悲惨な運命に直面するだろう。
(金光進・国家安保戦略研究所専任研究委員)