金融機関は公明性と透明性が求められる

日付: 2013年06月05日 00時00分

 5月末、在日韓国人系の信用組合から2つのビッグニュースが飛び出した。一つは5月21日、近畿産業信用組合(本店・大阪市)の理事会で青木定雄会長以下親族3人が降格となったことだ。もう一つは24日、在日韓国人信用組合協会(韓信協)が、会員組合の中央商銀信用組合(本店・横浜市)とあすなろ信用組合(本店・長野県松本市)が合併協議中であることを発表したことだ。
 日本で最初に設立された民族系金融機関は、1952年から営業を開始(設立は51年)した「同和信用組合」だった。当時は在日韓国・朝鮮人に対して融資する金融機関はまったくといっていいほどなく、いわば民族の経済活動の心臓となるべき機関だった。
 しかし同和信用組合は、韓半島の分断とともに民団側の「経友系」と総連側の「関東系」に分裂してしまう。同和信組から「一斉脱退」した民団側は54年、東京に漢城信用組合を設立した。漢城信組は後の東京商銀、現在のあすか信用組合にその系譜をつないでいる。
 しかし、民族系金融機関にはトラブルがついて回った。特に90年代にはバブル崩壊の影響で多数の金融機関が統廃合を繰り返した。
 当時は日本の大手金融機関や証券会社も破たんを経験しているが、民族系金融機関ではトップに近い人物の乱脈融資が引き金となったケースがほとんどだった。少し前に世間をにぎわせた総連中央会館の競売も元をただせば本国への送金に躍起になり、金融機関としての健全性を失ったことにある。
 今こそ金融機関としての原点に立ち返り、厳正なる審査と透明性を確保し、本当に資金が必要な人に融資をすべきだ。
 近畿産業信用組合の場合、青木会長らによる「世襲による組合の私物化」(大本崇博理事長)が引き金になった。5月21日に発表された降格人事は、6月3日の臨時総代会で正式決定した。前号で言及したが、青木会長は破綻しかけた近産を立て直し、わずか10年あまりで預金量を日本の信組全体の2位に押し上げた人物だ。その経営手腕は高く、大本理事長らもその点は認めている。
 しかし、青木会長は自身が経営する会社に近産の広告を出させるなど、公私混同が目立った。経営手腕が秀でていたとしても、一大信組のトップである。また経営立て直しは決して個人の力だけによるものではない。
 金融機関は公的性格を持つ。高い透明性と道徳性が求められる。透明性と道徳性が失われた金融機関は破たんの道をたどらざるをえない。トップはその立場に応じた重い社会的責任を受け止めるとともに、経営は専門の知識と経験を持つ人物の手に、またトップの私情を差し込むことができない融資制度や組織作りが不可欠だ。
 民族系金融機関のトップには、ほかの事業で成功した人物が就くことがほとんどだが、こうした成功者が肩書き欲しさで就くような職ではない。ましてや自身や親族が経営する会社に優先的に、しかもずさんな審査で融資することなどあってはならない。また、トップが複数の肩書きを持ちながら、金融機関の経営などまともにできるだろうか。
 中央商銀とあすなろ信用組合との合併協議は、韓信協の組織を挙げて取り組もうとしている課題だ。長い不況が続く日本経済の中で、特に中小・零細業が多い在日韓国人の商工人は苦労している。民族系金融機関に寄せられる期待は高い。金融機関として本来の役割を果たしているところも当然ある。彼らには、それを継続してくれるよう期待する。
 合併協議の計画によると、個人の出資金の募集もさることながら、韓国と日本の公的資金の導入も考えているようだ。しかし、「合併したからよくなるという保証はない」という声が聞こえてくる。
 合併は勝算あっての取り組みだろうが、問題を先延ばしにすることなく結果を出さなければならない。またその結果には、責任を負わねばならない。周囲の状況を踏まえて、当事者には真剣に取り組んでもらいたい。


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