【座談】新政権への期待と要望<下>

日付: 2013年02月28日 05時15分

 大統領選挙の争点になった経済面の格差是正などについてはどう思いますか。
  韓国において財閥系企業の売り上げはGDPの約7割を占めています。彼らが経済を牽引してきましたが、中小企業の成長はその分停滞しました。総務省の資料によれば、日本では大企業が約1・2万社で全企業の0・3%であるのに対し、中小企業が約420万社で99・7%を占め、雇用者数でも中小企業が約7割を占めています。韓国ももっと中小企業を育てるべきだと思います。
日本進出を狙う韓国の中小企業の展示会
 洪 2つの観点があります。まず、日本と韓国の経済・産業構造が似ていること。一方で韓国は「匠の技」や「オンリー・ワン」にこだわる日本の中小企業からまだまだ学ぶべきところがあります。2つ目は実質面での技術力です。例えばIMD(国際経営開発研究所)発表の指標では韓国は日本を上回っていますが、これはインフラなどを含めた評価です。一方でOECDの技術力評価では日本がダントツトップで韓国は最下位です。技術貿易収支比率から実力の差が見えているのです。大企業も中小企業も、日本企業と経済・技術・人材交流を積極的に進めるべきと思います。
  いい技術を持っているのにどこに売り込んでいいのかわからないという韓国の中小企業もあります。政府のバックアップは必要です。
  明るい話が2つあります。在日の科学技術者に韓国の中小企業との技術交流について聞いたのですが、希望する使用言語について日本語・韓国語・英語が均等になっていました。この背景として、いわゆるニューカマーの専門家が増えていることです。もう1つは日韓の中小企業が共同で東南アジアに進出する動きが出はじめていることです。韓日が一つの経済共同体に向かっていると思います。
 昔に比べると韓国に対するイメージも変わってきていますね。
  ある日本人の知り合いで「韓流をブームで終わらせるだけでなく、文化として根付かせたい」と活動している方から聞いたのですが、昔は冷蔵庫の中にキムチを入れていると母親から「入れないで」と言われたらしいです。でも今はそのお母さんもキムチを食べているようです。日本の文化も韓国に入るようになり、互いに文化を共有して少しずつ打ち解けられるようになっているのではないかと思います。
  私たち既存の在日はその流れに乗っているのでしょうか。
  個々人で温度差はありますね。
  ワールドカップのときに感じたのですが、ニューカマーの方の役割も大きいですね。大きな飲食店を経営し、そこを国籍を問わず解放して応援のスペースとして提供していました。それまではそのような規模でやっている店を見たことはありません。彼らの文化や発想と既存の世代が共生していくことが大事だと思います。

 韓国では少子高齢化とそれにともなう社会のひずみが生まれています。若者の就職なども大変なようですが。
  私が韓国で大学を卒業した2006年は、そこまで就職が厳しいという話は聞きませんでした。しかし同じく韓国に留学した4歳年下の妹に聞くと、周囲には就職浪人が多かったようです。妹は韓国で就職せずに日本に帰ってきて専門技術を学びました。また、医療費が高いというのも実体験としてありました。
  就職の厳しさは韓国人なら全員知っています。子どものころから教育面での競争が激しく、大卒が当たり前になっています。学生の財閥志向も強いですね。中小企業なら職はあると思うのですが、変に学歴が邪魔をして「私はもっといいところで働く」という若者も多いと聞きます。中小企業の方と話をすると、いい人材があまり集まらないと言っています。人が会社を選ぶのと同じく、会社も人を選びます。どこまで実力があるのかと、経営者として彼らを厳しい目で見てしまいますね。
 教育熱が高すぎることが子育て世代には大きな負担になっているようですね。
  どこの国でもそうなるものと思います。かつて日本でも「ご入園」、「ご入学」がとりざたされました。また小学校の時に共通試験があって、人生の方向が限定される国もあります。親が必死になるわけです。しかし制度だけ変えても効果があるかは疑問です。家庭、教育、就職、意識と、トータルで変えていかないといけないのではと思います。日本は今韓国が抱えているいろいろな問題を昔から経験しています。日本は韓国にとって「問題先取り国家」なのです(笑)。日本がうまく対応した例は参考にしつつ、韓国らしく世界のお手本となるような解決策に果敢にチャレンジしてほしいと思いますね。
  教育と少子高齢化について大統領にお願いしたいのは、女性が「子どもを産みたい」と思える国に、出産しても不安なく子育てができる国にしてほしいということです。託児所の充実などを図ってもらいたいですね。子どもが大人になって社会を支えるのですから、社会全体が過度な競争から離れていかないと、先進国に入った韓国が伸びていかないのではないかと思います。
  私の人生では韓国に留学したことが大きな経験になりました。留学時代に知り合った友人の中には、日本に帰ってきて活躍している人もいれば韓国に残って仕事をしている人もいます。在日にとっては韓国が一番身近な国です。希望を持って留学する人が、「韓国に行ってよかった」と思える社会になってほしいです。
  昔は日本人に「韓国から来た」というと「キムチのパワー」や、「辛い、臭い、おいしい」などといわれたものです。しかし今は「おいしい、おいしい、おいしい」です(笑)。日本人は韓国人に親しみを覚えています。人も企業も文化も仲良くなってもらえればと思います。
  在日としては、日本との関係は慎重かつ大胆に、前向きに進んでほしいと思います。日本にはノーベル賞では文学賞2人、平和賞1人ですが、16人は自然科学の分野から出ています。さらにノーベル賞の候補者もたくさんいます。そういう文化力、科学技術力をもった日本に我々在日は住んでいて、世界トップクラスの人と一緒に仕事や研究をしているのです。在日はその自覚と自信をもち、新大統領にはそれを直視して新時代の韓日関係をリードしてもらいたいですね。


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