<特別寄稿>朴世逸・韓半島先進化推進財団理事長

経済成長と民主化達成した韓国 次の課題は統一による先進化
日付: 2013年01月01日 00時00分

 急速な経済成長を成し遂げ、犠牲を払いながらも民主化にも成功した韓国。しかし昨今は世界的な景気低迷にともなう成長の鈍化や、社会各所での格差やひずみが問題となっている。今後、韓国の成長動力となるものは何か。韓半島先進化推進財団の朴世逸理事長は、統一こそ韓国にとって新たなフロンティアになるとともに、国家の真の先進化にもつながると説く。その方法について、国民と次期政権への提言とともに寄稿してもらった。

大韓民国3つの国家課題

朴世逸氏
 韓国は21世紀において、どのような目標と国民の夢を持って今後進んでいくべきか。独立後の韓国は国の目標として3つの国家課題をもっていました。
 1つめは、韓国を本当に暮らしやすい、いい国にしようということです。それまでは非常に貧しい国でした。しかし成長を遂げ、富を得よう、ということでした。産業化に向けて努力してきました。1963年、国民1人あたりの年間所得は100ドルでした。しかし1995年には1万ドルまで成長しました。30年間に100ドルから1万ドルという高度成長を遂げた国は、少なくともその当時は世界のどこにもありませんでした。いわゆる漢江の奇跡といわれるものです。
 2つめの国家課題は、民主主義の確立でした。韓国も民主主義国家になろうと、民主主義で暮らそうというのが国民の念願でした。産業化に成功した1980年、90年に入り、民主化にも成功しました。しかし先進国入りするためには時間がかかります。民主主義においても同じです。本当の意味での成熟した民主主義を果たすためにはまだまだ解決すべき課題がたくさんあるといえます。
 残された課題は、経済と政治をどうすればより先進化させられるのか、というテーマです。先進的な経済、成熟した自由民主主義、というのが今後解決すべき課題といえます。
 3番目は、統一祖国を実現することです。経済成長と民主化とは違い、この課題はこれまでこれといった進展はみられませんでした。21世紀における韓国の課題は、先進化と統一の2つに絞ることができるのではないかと思います。
 先進化とは、本当に成熟した自由民主主義国家に成長することです。さらに、統一まで実現する。先進統一祖国の実現というのが21世紀の韓国の国家課題になるべきだと思います。これを私は「先進化統一論」と呼んでいます。
 先進化を実現するためには、正しい統一論が必要です。正しい統一論には、2つの条件があります。1つ目は、韓国だけでなく北韓まで先進国にすること。2つめは、自由民主主義を基本とする、ということです。北韓を先進国にすることを目標に掲げる統一、ということです。こうした統一を実現することが、私は次期大統領が解決すべき課題だと考えています。
 これまで韓国は、統一せずにこのままでいいと考える雰囲気でした。それだけ統一は簡単なことではないのです。

統一への意思と外交がカギ

 我々の歴史上、高句麗と百済が新羅によって統一されました。新羅が統一したのは、高句麗より軍事力が強かったからなのか。そうではありません。軍事力は新羅より高句麗の方がはるかに上回っていました。ではどうやって新羅は統一を果たしたのでしょうか。
 新羅は統一への意思が強かったのです。国民が心をひとつにして統一を果たそうと最も強く願い、最も準備していた国が新羅、ということです。
 当時は円光という仏僧が若者たちを団結させ、新羅が理想とする青年の在り方をつくりました。護国仏教です。彼が若者の国を愛する心を育て、統一思想に発展させたのです。国民が統一をするという切なる意思をもって、それを一つにする人がいて初めて統一ができるのです。ここまでは、統一への意思が大切だという話です。
 次は、統一外交です。統一外交というのは、隣国に対し、韓半島の統一が韓国の国民だけに利益をもたらすのではなく、あなたたちの国の利益にもなる、ということを主張するというものです。私はこれまで、韓国は統一外交というものはなかったと思います。
 今年の夏、東京で起業家を対象に講演をしました。テーマは『日本の未来と韓半島の統一』でした。
 日本は過去100年間、アジアで最も成功した国として高く評価します。しかし、今後日本の未来は日本の中では見出せない、というのが私の考えだと申し上げました。ではどうすればいいのか。日本は新しい北東アジア開拓に参加すべきだ、参加をすることによって日本は一緒に成長できる、という話をしました。
 新しい北東アジアを切り拓くためにまず解決すべき問題が北韓問題です。韓国だけの問題ではなくて、日本の未来も関わっている。それが私の主張の要旨でした。私は北韓問題を解決するため日本と韓国は力を合わせ、米国や中国を説得して北韓問題を解決しましょうと呼びかけました。南北統一に向けて日本が貢献すれば、それこそ真の意味で過去の歴史に対する反省になります。過去の歴史を反省することを急ぐのではなく、よりよい未来をつくる上で、真の友人として参加してほしい、という話をしました。
 中国に行っても同様の話をします。中国はまだ、北韓に対して自分たちの辺邦国と考えています。中国の指導者の多くがそのように考えていますが、新しい指導者、若い指導者は少し違う考え方を持っています。韓国と一緒に、民主、新しい北東アジア時代を切り拓くのが中国にとっても利益になると考える人が増えています。彼らと力を合わせ、古い考え方を変えさせるのが中国に対する外交の在り方であると私は考えています。米国やロシアの場合も同じです。
 大事なのは、統一は韓国だけでなく、米国・中国・ロシア・日本の4カ国にも非常に利益になると教えることです。統一への意思を強く持ち、統一外交を積極的に行おうということです。

北韓住民の心をつかむこと
ベルリンの壁

 統一のための3番目のカギは、北韓住民の心をつかむことです。これまで韓国政府は北韓の政府の当局筋とは対面しましたが、住民たちとコミュニケーションをとることはありませんでした。
 韓国の統一政策は、現状維持のためのものでした。統一をするための費用があまりにも負担になるのではないかとして統一に消極的でした。これは間違った考え方です。統一は費用ではなく、投資にあります。
 ドイツは外交においては成功しましたが、統一にかかる費用の管理には失敗しました。政策の間違いです。理由は簡単です。西ドイツに比べ、東ドイツの労働者の労働力は3分の1程度でした。しかし統一後は、西と同水準まで給料をあげました。東ドイツの工場の製造費が非常に高くなったことで工場が回らなくなってしまいました。さらに、東ドイツの購買力が高くなり、東ドイツのものではなく西ドイツや他国の製品を買うようになりました。東ドイツの工場は2、3年で閉鎖となり失業者が増え、その失業者に対して西ドイツ並みの補償をしたのです。
 こうした前例を踏まえ、韓国はそれを避けることができます。少ない費用で統一のための投資が行えると思います。しかし保守・右派の一角はこうした懸念から、統一に対して消極的な態度をとっているのです。また、韓国の革新左派は、いつからか統一について語らなくなりました。統一について語る革新左派はほとんどいません。みんな平和を語り始めました。
 平和、いい響きですね。しかし、核がある状態で平和を望めると思いますか。長期的に見て安全がもたらされると思いますか。統一後により大きな平和をつくろうと考えず、今の狭い視野での平和を唱えているのが現状です。そして北韓の考える、望む通りの一方的な支援をする、こうした状態が続いています。
 統一が実現できないと北韓が中国化し、次なる冷戦時代が来てしまいます。これから積極的な統一政策を展開すべきだと思います。その中で、大事なのは1つめとして統一の意思、2つめは統一外交、3つめは北韓の住民たちの心をつかむべきだということです。

北韓住民にいかに訴えるか

 北韓住民に希望のメッセージを発信することが大事です。韓国にはそのような道があります。我々の意思、同胞に対する愛、未来に対する夢を北韓の同胞に伝える方法があります。
 それは何かというと、携帯電話です。韓国には脱北者がおよそ2万4000人います。彼らは携帯電話で北の住民と連絡をとっています。韓国には中国から出稼ぎにきている朝鮮族が約50万人います。彼らも北の住民と連絡をとって交流しています。北韓住民は、中国に住む親族を訪問できます。
 脱北者、朝鮮族に対して、どのような韓国をつくっていくべきか、韓国の国民がどういう考えをもっているか、というのをアピールしてもらうというのが、統一時代を切り拓く上で非常に重要なことだと考えています。少なくとも、北韓の住民の中に「状況が厳しくなっても韓国の住民と力を合わせてやっていこう」と考える人を増やすためには我々どうすべきか、ということを考えれば、方法と道が見えてくるのです。

低成長と格差是正のポイント

 物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさがある国をつくるのが本当の意味での政治家だと思います。朴槿惠・次期大統領が今後5年間で改革すべき問題の1つめは先進統一です。
 2つ目の課題を端的に申し上げますと、国内経済の低成長と二極化の問題です。成長率が下がり、貧富の格差が広がっています。これは韓国だけの問題ではなく、日本も米国も同様の課題を抱えています。この問題を次期大統領は韓国国内で解決すべきです。
 これを解決するには2つの方法があります。1つめは、ポピュリズム、つまり人気主義で問題を解決することです。ポピュリズムとは決められた予算に対し、まずは国民が望むとおりに執行することです。必要であれば利率を下げ、国民に対して低金利で融資を積極的に行うのです。財政を積極的に確保して福祉を拡大します。これは長くは続きません。しかしこれを求めている国、必要としている国もあります。こうした方法がまずあります。
 2つめは、構造改革を行うという方法です。経済システムをより生産的に、より効率的にするための努力をしている国があります。この2つが一般的な方法です。

統一こそが解決への道

 しかし、理論的に考えるともう1つ方法があります。それは、経済の領土を拡大するということです。ニューフロンティアを切り拓き、経済活動の場を増やすということです。幸い韓国は、この3つめの方法を実現できる可能性があります。それはなぜかというと、北韓という新しい領土があるからです。統一の問題を解決すると同時に、世界のどの国も抱えている低成長と二極化の問題を解決する切り札が揃っているということです。統一を実現して、韓国の低成長と二極化の問題を解決すべきです。加えて、北韓の貧困と飢餓の問題を一緒に解決していくべきです。これが、今後5年間の韓国が進むべき道です。
 そして北東アジアにおいて政治一流国家となり、中国の辺邦国ではなく、世界の中心となり、統一韓国として世界をリードすることが我々の進むべき道です。そういった道を切り拓いていくのが次期大統領のやるべきことです。
 韓国が抱えている低成長と二極化の問題を解決し、北韓の貧困と飢餓問題を一緒に解決し、北東アジアに一流政治国家建設を実現し、我々の子孫が100年後、「先祖がこうした素晴らしい政治一流国家をつくりあげたのだ」と言えるような時代を切り拓こうと、子孫たちがそうした話ができるような時代がもたらされるように共に努力しましょう。


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