国民の約束は憲法の遵守から

日付: 2013年01月01日 00時00分

 朴槿惠氏が第18代大韓民国大統領に当選した。
 今回の大統領選挙は、さまざまな新記録を残した。初の女性大統領、大統領直選制が導入された1987年以降、初めて得票率が過半数を超えたことなどだ。開票に不正を指摘する声が上がらなかったことに加え、勝者が敗者を称え、敗者が勝者を祝い、選挙後に「ノー・サイド」となったことも珍しい。
 民主主義の歴史が短い韓国の事情を考えれば、今回は国民が選挙を通じて民主主義を確立させたと評価できる。
常識人が成し遂げた革命
 75・8%という大統領選の投票率は、驚異的な数値だった。かつてないほど静かな選挙戦。大きな争点もなく投票日を迎えたため、ここまで高い投票率になると予想した人はほぼいなかった。
 今回の大統領選挙の勝敗を分けたキーワードは「常識の勝利」といっていい。
 今回は、常識ではありえない候補や策略が飛び交った選挙だった。政治経験がまったくない素人候補が「野党一本化」という美名の下で勝つためだけに野合し、そこに従北性向の政治勢力まで加わった。
 統合進歩党の李正姫代表は出馬理由として「朴槿惠氏を落とすため」と言い放ち、選管主管の候補者討論会でも討論ではなく朴氏に対する個人攻撃に集中した。投票日直前に立候補辞退した李氏は「政権交代を実現しなさいという国民の熱望を叶えるため」と、野党候補への支持を表明した。
 政府から支援された27億ウォンの選挙経費に対しては「法のとおりにする」とした。法律上返却の義務がない経費はどこにいくのか。
 「政治改革のアイコン」として急浮上した無所属の安哲秀氏の行動も常識に欠けていた。投票日まで3カ月を切った時点で出馬への意思を表したものの、その後は自称「びっくりショー」を連発するだけ。政治改革を唱えながら具体的な政策は提示できなかった。
 民主統合党の文在寅候補との一本化交渉でも、「電撃的」を好んだ。会見も突発的なら辞退発表も日刊紙締め切り直前。投票日前日に文候補の応援演説をした後、投票日には米国に向けて出国してしまった。「同じ船に乗った同志」といいつつ、最後まで結果を見届けなかったのだ。
 韓国国民はこのような非常識な行為に対し、「民主主義の華」である投票をもって審判した。また、大韓民国の現代史を肯定する勢力と、従北に反対する「愛国勢力」の勝利という点でも革命的と呼ぶに値する。
次世代歴史教育の課題
 今回の大統領選は「世代間対決」に凝縮された。40代を基点にその上の世代と下の世代間の熾烈な争いが起きた。投票率が高くなれば野党有利に働くのが常だった歴代大統領選挙の伝統は、「常識人」によって崩れた。
 壮年層の有権者からは「国家の伝統性を否定する勢力に票を入れることはできない」、「支持者ではなかったが、李正姫の従北的言動を受け入れられないので朴槿惠に投票した」、「安定した国家経営ができる人に投票した」という声が多かった。50代の89・9%という投票率は、それを物語っている。保守候補の得票率が2桁に乗らなかった全羅道で朴候補の得票率が10%を超えたことも無関係ではない。
 一方、大統領選は重い課題も残した。
 半数に近い国民、特に20~30代の3分の2が野党候補に投票したことだ。若い世代の親世代と既成政治に対する不信感がどれほど大きいかを示すものだった。ただし不信感の一部には、韓国現代史に対する教育が不足しているためという側面があることを見逃してはならない。
 若い世代の中には韓国を建国した李承晩大統領を「南北分断の元凶」と、国民の生活を改善して徹底した安保政策を広げた朴正熙大統領を「希代の独裁者」と見る人が少なくない。大韓民国は先覚者的な国家指導者と、現在の50、60代の努力で戦争の廃墟と南北分断を乗り越えてきた伝統ある国だ。
 今回の大統領選挙では、若い軍人が多数不在者投票に参加した。不在者投票者90万人のうち、軍人は約40万人。過半数が朴候補に投票した。彼らが軍隊で受けた「政訓教育」(国家観と安保観に関する教育)の効果といえよう。
 政訓教育は若い世代に韓国が置かれた実情を正確に教えることができるという実証だ。次期政権は、次世代への現代史教育を核心課題に設定しなければならない。
公約実現も憲法の下で
 次期大統領になる朴槿惠氏にとって一番憂慮される問題は、同氏が強調する約束の履行だ。
 朴氏は議員時代から有言実行の「信頼の人物」というイメージが定着している。
 しかし忘れてはならないのは、民主主義国の最高指導者にとって国民に対する約束の指針は、憲法とその精神にあるべきということだ。憲法を遵守し、法治を徹底しなければならない。
 憲法は民主国家の最高規範であると同時に、判断基準である。自分の発言を実行することにとらわれるあまり、誤った政策と知りつつそれを進めれば、失策を犯すことにもなりかねない。
 ともすれば「教条主義」に陥って忠言を聞くことができなくなるおそれがある朴氏は、大統領選期間中、大幅な福祉拡大を公約に掲げた。12月18日の夜に光化門広場で行った最後の遊説では、軍の服務期間を18カ月に縮めるという突発的な約束も口にした。それを履行しようとすれば、優先課題として数百兆ウォンに達する予算を調達しなければならないし、軍事力低下を補完する策を出さなければならない。
 これからできる大統領職の業務引継ぎ委員会では、できることと不可能なことを区別して政策を出さなければならない。約束や人事の「大蕩平」(党派を超えて和合する策)にとらわれすぎると、法治のルールは無視される危険性がある。


閉じる