李明博大統領の独島(日本名・竹島)上陸から1カ月が経とうとしている。事態は現在、収束させることはおろか拡大を食い止めるのすら厳しい状況にある。ましてやこの状況に具体的な対策を立てるのは大変な困難といわざるをえない。
李大統領の独島上陸については、従軍慰安婦問題に対する日本側の態度が変わらないことを受けての決行だったといわれている。側近や実兄が逮捕されたことから国民の目をそらせることや、20%を切った支持率の回復を図り、ひいては自身が逮捕されることを避けようとの動機があったという推測もある。
動機が何であるにせよ、今すぐに政治の次元で事態を収めることは期待できない。韓日両国の、互いの国の事情をよく知る有識者が冷静になることを呼びかけるべきだ。
失われた調整力
今までは韓日でトラブルが起きても、両国の少数の有識者が冷静な対応による調整を行ってきた。しかし今回は、日本側で韓国に対して批判的なトーンが目立つ。実際に上陸という形で李大統領が動いてしまったことと、天皇に対する謝罪要求発言があったためだ。特に天皇への発言は日本社会全般の心象に響いたようだ。韓日・日韓議員連盟や韓日・日韓親善協会がそれなりに機能してきたが、今回は両者ともまったく機能していない。
リチャード・アーミテージ元米国務副長官ら米国の有識者グループがこのほどある報告書を発表した。報告書は北の核問題や中国の台頭に対して韓日米3カ国の同盟関係が不可欠だと指摘。3カ国の民間レベルで領土問題を除く諸問題について話し合いを行おうと提言している。
現在の韓日関係悪化は、1965年の韓日国交正常化以降最大の危機といわれている。しかし韓日両国が国交正常化後に積み上げてきた成果は計り知れないほど大きなものだ。両国の当局者はこの「最大の危機」をいかに乗り切るべきか知恵を絞るべきだ。それにはまず、現状の正しい認識が必要だ。
「反日」は感情ではない?
韓国の反日については、よく感情的なものだといわれる。確かにデモなどでは感情的な言動が目立つし、過去の植民地支配により被害を受けた韓国人の胸の底に感情的なわだかまりがあるのは事実だ。
しかし、問題はことあるごとにそれを刺激する勢力がいることだ。反日は感情の爆発ではなく、感情をあおって韓日の離反をもくろむ勢力がしかける「イデオロギー戦争」という側面の方が強い。
韓日の対立によって利を得る漁夫は誰か。両国との間に領土問題を抱える中国共産党であり、北韓の金正恩政権だ。
韓日両国の同盟国である米国国務省のヌランド報道官は8月13日、「太平洋地域にあるこの2つの同盟国に対し、この問題について話し合いを行い、対立を解消するよう求める」と述べている。周辺国を中心とする諸外国が、韓日関係の成り行きに注視しているということを忘れてはならない。
首脳の交代で…
韓国では12月、大統領選が行われる。新大統領が誕生するのは来年だ。日本でも野田佳彦首相が「しかるべき時にやるべきことをやった後に信を問う」と、衆議院の解散を示唆している。これを機に、両国の新指導者が韓日関係改善に大きく舵を切ってもらうことを願うばかりだ。
今回の事態は、李大統領の軽率な行動から始まった。しかし、日本側の対応も冷静だったとはいえない。双方に歴史認識や領土に関する主張に隔たりがあるのは明らかだ。それが今まで問題の火種になってきた。まずは根気よく話し合い、互いの相違点を洗い出す作業から始めてはどうか。
韓国軍は7日から独島近海で訓練を行う。一時は海兵隊の上陸訓練も予定されていたが、幸いなことに中止になった。両国には冷静になってほしいものだ。