‘安哲秀現象’は韓国の幼い民主主義への重大な挑戦

教育を受けた無知者らと従北左派および特定地域勢力が中心となって国家反逆前科者29人を国会に送ったのに続き一人の独善者を大統領にしようとする。
日付: 2012年07月30日 23時46分

趙甲済

‘自己’がない本
対談集‘安哲秀の考え’(金英社)は最近私が読んだ本の中で最もつまらなかった。その本、275ページの分量を義務感のため分析的に読むのは苦痛だった。
おもしろい人が良い人であるようにおもしろい本が良い本だ。面白味はどこからくるのか? 率直さ、ドラマチックさ、深い考え、魂を清くしてくれる教養、新鮮な観点、衝撃的事実から生まれる。この本にはそういうものがない。
まず‘自己’がない本だ。安哲秀氏の話は彼の考えのように感じられない。どこだったかたくさん読んで聞いた話だが、主に従北左派勢力が発信した論理の枠組みの中で言っているため常套的だ。彼は左派的に考える。左派的というのはこの世を階級闘争的観点で見るという意味だ。そういう観点から大韓民国を‘弱肉強食’と‘勝者独食’の社会だと罵倒する。とんでもない扇動であり歪曲だ。
教養が感じられない。漢字を一文字も使わない本だ。私は、韓国語を表記する二つの文字の中の一つである漢字を抹殺した文は文と思わない。安哲秀氏と金英社が作ったこの本は国語の文法の原則に背反しているため正常的出版として認められない。教養の土台は‘人文的知識’だ。‘知識’を構成する五つの要素がまさに人文的教養の基本だ。矢はつまり戦略だ。口はすなわち経済だ。言は人文学で、音は芸術であり、戈は戦術だ。知識人を自任するためには戦略、戦術、経済、人文、芸術的素養を備えなければならないという意味だ。
人文的教養の枠組みは歴史、文学、哲学だ。国家と民族の歩みが分かるようにする歴史、人間の本質を探求する文学、事物の原理を明かす哲学だ。安哲秀氏の話からはこの教養の香りが感じられなかった。50歳を超えた人には当然要求される資質だ。彼はハングル専用教育の被害者なのかも知れない。
人間の潜在力を無視
彼は人間を非常に虚弱で他人に頼る存在だと見る。人間が持つ偉大な潜在力と生存力、そして克己の力と創造力を認めないようだ。貧しい人々をまず虚弱な存在と見て、国家が無条件保護すべきだという考えが目立つ。過保護が人間の闘志を弱化させ人生を駄目にし得るという認識自体がないようだ。
そういう安哲秀氏が打ち出した‘福祉、正義、平和’は空しい。福祉は成長によって、正義は法治によって、平和は安保によって維持される。彼はこの本で成長、法治、安保に関する信念もビジョンも示していない。政府がムチだけを使って南北関係を悪化させたと言い、北核問題解決方式は北韓政権が主張してきたことの踏襲だ。これは安保放棄的発想だ。狂牛病乱動と龍山放火事件を鎮圧した政府を誹謗し乱動の本山である従北問題は無関心だ。法治の放棄だ。製造業を軽視し、大企業を敵対的に対しながら浪費的福祉を主張する。成長の放棄だ。それで彼の福祉、正義、平和は空しい。
正義感の失踪
彼は正義という言葉を愛用するが正義感が感じられない。正義感は公正な論理の上に立たなければならない。安哲秀は大企業に対しては敵対感と怒りを表すが、民族反逆者で虐殺者で反人類犯罪者である金日成一家と従北勢力にはそういう感情が起こらないようだ。怒りの対象を間違って設定したのだ。
大韓民国を建てて、護り、育てて、磨いてきた先輩世代に対する感謝も感じられない。まともに怒れない人々はまともに感謝もできない。李承晩、朴正煕、米国、国軍、トルーマン、李秉喆、鄭周永のような人を嫌うのが従北左派勢力だ。安氏に彼らへの感謝の思いが少しでもあれば、大韓民国を‘弱肉強食’とは表現できなかった筈だ。弱肉強食はジャングルと野蛮の論理だ。国連開発機構(UNDP)の昨年の統計によれば、韓国は世界187ヶ国中生活の質(人間開発指数)が15位の国だ。米国と先輩世代の血、汗、涙で世界的文明を建設した国だ。そういう祖国を野蛮のジャングルだと格下したは人が大統領になり国軍の統帥権者になったら?
北韓人権問題と脱北者に対して短い言及があるが、温気が感じられなかった。指導者になろうとする人に要求される正義感は、愛国心の別の表現であろう。韓国人の愛国心は北韓政権と従北勢力への憤怒、大韓民国に対する愛と自慢、米国への感謝の気持ちでもある。安氏にはこういう感情構造がないようだ。
彼は対談を通じてあまりにも多くの分野にわたって知っているふりをし過ぎる。生きて変化するこの世の現実を左派的認識の枠組みに組み入れようとする。安哲秀の考えでなく左派がプログラミングしたものらを頭に入れておいて自販機のように吐き出すようだ。陳腐で紋切り型の分析であり代案だ。
“大学生レベル!”
万病を治す解決策として登場するのが疎通と合意だ。利害関係が尖鋭に対立し絡まっている韓国社会の問題を、疎通と合意で一挙に解決できるという式だ。彼が新しいものだと思って熱心に説明する問題解決策を聞いているとすでに施行されているかどうでもよいものも多い。例えばこういう言葉だ。
<今の政界は陣営論理に陥って相手の意見をなかなか受け入れませんが、和合と疎通のリーダーシップを通じて福祉、正義、平和の時代的課題を追求しなければならないと思います。>
<有能な人材は政派と関連なく起用する文化が必要です。人材推薦委員会のようなシステムを作って常時的に幅広い推薦を受けて検証委員会を通じてこの人材を適材適所に起用する方法が考えられるでしょう。>
彼は和合を主張するが、言動は左派的観点に立つため分裂的だ。去年ソウル市長選挙の時は朴元淳支持者を常識派、反対者を非常識派と区分した。‘安哲秀の考え’から‘傲慢’、‘偽善’、‘左翼性’を看破した自由陣営の理論家たちも感情的反応を示した。
韓国経済新聞の鄭奎載論説室長は、自ら運営する‘鄭奎載のTV"(*右写真)で安哲秀氏の本を苛酷に批判した。
“呆れた”、“水準以下だ”、“大学生水準だ”という言葉が頻繁に出る。
“赤たちがプログラミングした言葉を選んで考えずに話す”
“物事を何も分からず喋る話だ”
“良い言葉らを集めた”
“定年延長、賃金ピーク制で青年失業率を減らすと言うのは良い話と良い話の間の矛盾関係が分からない話だ”
“問題の複雑性に対する理解がない”
“北韓政権への批判がない”
“歴史認識がない”
“概念がない”
“子供たちを騙そうとする”
“能力を超えている”
“ごり押しを聞いてくれないことを疎通が足りないと表現する”
‘南太平洋上の島国の大統領ならいざ知らず...’
鄭室長は‘情けない"という軽蔑の表情を何度も表わした。文化日報の前論説室長・尹昶重氏も‘安哲秀の考え"に対して‘吐き気がする"という表現をした。彼は東亜日報のテレビAチャネルに出演して‘大人から乳児の乳臭いにおいが漂えばそれを悪臭と呼ぶ"と言った。
資料を検索して見たら若い自由の闘士・金成昱も昨年のソウル市長選挙に介入した安哲秀の教示型の手紙を読んで‘吐き気がする"という反応を示した。安哲秀氏の道徳君子然とする偽善に怒ったのだ。
私も先月の6月、tvNの白智娟とのインタビューでこういう対話を交わした。
<白:そして、安哲秀院長に対する意見もちょっと伺いたいと思います。いろんな話を書いていらっしゃいますが、幾つかだけを伺えば‘大韓民国に赤がどこにいますか?’と言った話と関連していろいろ話していらっしゃるし、‘安保と関連してみると白紙状態だ’というお話もされました。特に‘語彙力が足りない’と仰いながら語彙力は一人の人間の読書と思索、こういうものの結果と仰いましたが、何を根拠に安哲秀氏を評価したのかをちょっと話して下さいませんか。
趙:良く纏めて下さいましたが、私はそう思います。大統領とは国軍の統帥権者になることです。大統領の第1の資質は安保と理念です。そして法治に対する確固たる哲学がなければなりません。そして専門的な知識がなければなりません。これはこれから勉強してできるものでありません。勉強すれば頭では分かるようになりますが、指導者が頭でやりますか? こういう問題は信念でやるものです。なのに、今左派教授を呼んで南北関係に関して勉強しているそうですよ。また、自分のお父さんに‘今の世の中に赤がどこにいますか?’と話したそうですが、そう話したら‘私は大統領になれる資格がない’という告白です。いや、国内の赤たちのために気楽に眠られず、このように騒々しいのに‘赤がどこにいますか?’というならその人が南太平洋上のトンガやフィジーで大統領になるならいざ知らず、大韓民国でなぜ大統領になろうとしますか? 自分も不幸になり国も不幸になりますよ。
白:安保や理念はそもそも鋭敏な問題だから、自分の考えがあっても話をしないこともあり得るのではありませんか?
趙:安保や理念が鋭敏なものでなく重大な問題であり、韓国で公務員になりたいと思う人は誰でもそれに対して自分なりの正解を持っていなければならないということです。
白:今おっしゃった色々な問題にもかかわらず、現に安哲秀院長に対する信望が高いです。そのように支持度が高いため大統領選挙に出馬するとしたら….
趙:既成政治への不満からある代案を求めている内に、非常に清廉に見える、真面目に見える安哲秀氏に傾くようですが、問題は遠からず彼が露出されるでしょう? そして政敵から攻撃されるでしょう? そうなればその人の本来の姿がより鮮明にあらわれるでしょう。するとその姿が国民が今期待する姿と同じだろうか? 相当な差がありそうです。そして苛酷な討論を何度か経れば支持率に大きな変化がくるのではないか。また、次の大統領はその任期5年中に必ず北韓急変事態が来るでしょう。これは避けられません。それでは安保に信念のある人を選ばなければならないでしょう。
白:そういう次元で安哲秀院長の大統領として資質をどう考えられますか?
趙:無いと思います。>

韓国の幼い民主主義への重大な挑戦
‘安哲秀の考え’は幼稚だが世論調査で彼の支持率は非常に高く構造的に固い。この本が出る前の世論調査を総合すると朴槿恵対安哲秀は概して45対40%だった。安哲秀への支持率が高い地域は湖南(約60%)と済州(約50%)であり、大邱と慶北は18%で最も低く、慶南と釜山は36%だった。19~39才では安哲秀支持率は55%で、50才以上では約20%だった。自分が保守だと考える人々の中でも安哲秀支持は23%程度で、自身が中道だと考える人々の中では42%(朴槿恵は41~43%)、自身が進歩だと考える人々では65%が安哲秀支持だった。自営業、ホワイトカラー、学生で相対的に支持率が高かった。
彼は従北左派陣営の代表格である朴元淳をソウル市長に当選させた最大の功労者だ。朴元淳市長は国家保安法廃止論者で、韓国現代史を否定的と見て、天安艦爆沈の責任が李明博政府にあると主張する典型的な従北左派人物だ。彼を決定的に助けた安哲秀を保守の一部までも"安保では保守"と誤解している。セヌリ党の人々も“安哲秀はわが党が受容できる人物”と秋波を送ったことがある。それで相当数の保守-中道層が安哲秀を味方だと考えて支持したのだ。
彼の本を通じて安哲秀の左傾性が明らかになった。彼が好きな人と彼を好きな人、彼が使う人、彼が言う言葉を作った人々はほとんどが左だ。安哲秀氏は‘従北コンパニオン’の役割に留まらず直接大統領選挙に出馬しようとしている。政治組織がなく理念的に左派論理の捕虜になった彼は、大統領になっても‘従北の玩具’になる可能性がある。
民主統合党と統合進歩党と安哲秀勢力が大統領選挙で手を握れば20~40代を主力とする左派+中道性向の票を吸収するだろう。従北左派陣営は選挙を徹底して理念的に取組む。セヌリ党が理念対決を避けて、安哲秀の理念的アイデンティティを正確に知らせることを放棄したら苦戦するはずだ。何度も実証されたが、理念戦場の韓半島では理念が最大戦略だ。
1997年と2002年の大統領選挙で李会昌候補は金大中と盧武鉉の理念的正体を暴露しようとせず逆に息子の兵役問題で逆攻されて負けた。セヌリ党が従北論争を避けて勝っても、そういう形で取った権力は、李明博政権の例で見られるように力の行使ができない。
安哲秀氏が、天安艦爆沈が北側の仕業であることを認めながらもこれを信じなかった人々を咎めず逆に李明博政府を非難するのは天安艦爆沈が北側の仕業でないと思っている約30%の有権者を意識したためではないかと推測される。天安艦爆沈が平壌側の仕業でないと主張する人々は高学歴層と2030世代が主軸だ。安哲秀支持層と重なる。天安艦爆沈が北側の仕業でないと主張する人々は有権者としての資格がない。ヨーロッパではユダヤ人虐殺を否定したり歪曲する発言をすれば刑事処罰を受ける。韓国は教育水準が高いほど分別力が崩れる国だ。彼ら‘教育を受けた無知者’と従北左派勢力が、特定地域の圧倒的な支持を基盤に‘安哲秀現象’を作り出した。この勢力が総選挙(4月11日)で29人の国家保安法違反前歴者を国会議員に選ぶ決定的役割をした。法治確立と自由統一へ進むべき韓国の幼い民主主義は重大な挑戦勢力に直面したのだ。この勢力が1人の独善者を大統領にしようとする。
ジョージ・オーウェルは従北左派勢力と戦う時力になれる言葉をたくさん残した。
“偽りが幅を利かせる世の中では真実を言うことが革命だ。”
“共産主義と戦う時、われわれも狂信徒にならねばならないと主張する人々がいるが、私はそう思わない。私たちは頭を使わなければならない。”
あるシェークスピア研究者は慰めになる言葉を残した。“悪は自らを表わす。”
最悪は偽善と独善だ。
www.chogabje.com 2012-07-27 08:51


閉じる