ヨーロッパの平和は虚像!

日付: 2012年06月07日 20時53分

李春根
ヨーロッパ大陸は戦争の大陸だった。ヨーロッパが戦争の大陸だった理由は、近世以降強大国たちがヨーロッパというあまり広くない地域に集まっていたという地政学的特徴のためだった。強大国らが密集している地域は戦争地帯になり易い。20世紀が始まる前のヨーロッパは長い凄惨な戦争の主舞台だった。100年戦争、30年戦争など名前を聞くだけでも十分察知できる戦争が多かった。ビスマルクのドイツ統一戦争、ナポレオンのヨーロッパの覇権掌握のための大戦争などは現代が始まる以前の戦争だ。
ヨーロッパの国々は自分たち同士の戦いで疲れるや目を世界に向けて進出した。19世紀が始まってヨーロッパの強大国たちはアジアとアフリカに植民地を拡大し、歴史上帝国主義の時代と呼ばれる時代を開いた。20世紀になってもヨーロッパは戦争を止まなかった。戦争の規模があまりも大きくて‘世界大戦’と呼ぶ戦争を二回も起こした。
激甚な戦争や葛藤で綴られたヨーロッパが21世紀の今平和の大陸に変貌した。ヨーロッパの平和に感動された人々はもうヨーロッパで戦争は永遠に消滅したと話す。永い歳月戦争で明け暮れた英国、フランス、ドイツ、ロシア、オーストリア、ハンガリー、そしてオスマン帝国の後裔たちは現在どういう側面から見てもまったく戦争をしそうには見えない。
海の覇者だった英国が英国海軍を象徴してきた各種軍艦をインドに売却しており、フランスはロシアに航空母艦まで売っている状況だ。ヨーロッパの国々の国内政治で国防問題がイシューになったという話も聞いて久しい。ヨーロッパは平和の時代を迎えていると言える。ロバート・ケイガン(Robert Kagan)は、こういう現象を見てヨーロッパを楽園(Paradise)、自分の祖国である米国は今だ権力が支配する世の中に比喩した。[Robert Kagan, Of Paradise and Power: America and Europe in the New World Order, 2004.] ヨーロッパも以前は戦争と暴力が乱舞する権力の世界だったが、もうヨーロッパ人たちは楽園のような所で生きるようになったということだ。
しばらく前までも地獄同然だった戦争の大陸ヨーロッパが楽園のような平和の大陸に変わった理由に対しては意見が多様だ。ヨーロッパ人たちと国々が過去の残忍だった歴史の教訓を痛感して、国家間の葛藤は決して戦争という手段に訴えてはならないと覚醒した結果だろうか? 多くの人々がそう信じる。もはやヨーロッパ人たちと彼らの国家は再び戦争を起こす国や国民ではないということだ。
だが、人間や国家の本質が変わったためヨーロッパに平和の時代が到来したという説明は、常識的には聞こえるが知的でもなく分析的でもない。ヨーロッパの国々と人々の心が変わって戦争をしないヨーロッパになったとすれば、なぜまだドイツに5万人以上の米軍が駐留しており、英国、フランス、ドイツ、ロシアは今もそれぞれ世界3-7位の強大な軍事費を支出する国でありつづけるのか? 戦争がやれるDNAが消滅したヨーロッパなら軍事費をその程度に支出する必要もなくなるべきではないか?
ヨーロッパの平和が維持されている本質的な理由がまさに‘伝統的な力の論理’であるという主張が説得力を持っている理由が正にここにある。歴史上ただ一度も一国の覇権国によって全ヨーロッパが支配されたことはなかった。力がおっつかっつな強大国らが相互牽制と均衡のため戦争を起こし、時々急に力が増した一国が出現して全ヨーロッパを掌握しようとする覇権野心を表わした場合、他の強大国たちが力を合わせてこれを制圧したりしたのがヨーロッパ戦争史の明確なパターンだ。
1945年第2次大戦終息後ヨーロッパ大陸が平和を持続している理由は、ヨーロッパが覇権国である米国によって平和の秩序が保障されているためだ。東西冷戦が終息された後も米国はヨーロッパに残って事実上ヨーロッパの覇権国の役割を担っている。では、もし米国がヨーロッパ駐留米軍を撤収させヨーロッパの安保から手を引く場合もヨーロッパは今のような平和状態を維持できるだろうか?
第3世代の現実主義国際政治学の最高権威であるシカゴ大学のミアシャイマー(John J. Mearsheimer)教授は、米国がヨーロッパの安保問題から手を引くその瞬間ヨーロッパは直ちに第2次大戦以前のヨーロッパに戻ると断言している。ミアシャイマー教授の論理は、ドイツが統一される過程で英国、フランスなどが見せた露骨な行動で証明された。ドイツを統一させようとする米国の意図に非常に不満を持った英国のサッチャー首相は(旧)ソ連へ飛んで‘軍事力を使うことがあってもドイツの統一は阻止せねばならない’と力説した。不幸にも没落したソ連はそうする力がなかった。フランスもドイツの統一を猛烈に反対し、フランスの知性と言われるジャック・アタリはドイツが統一するなら自分は‘地球を離れて火星に行って住む!’と極言した。
ドイツの分断は、いつでも力が強大になり得てそうなる度に戦争を起こすドイツという強大国を永遠に消滅させるための措置だった。それで、英国とフランスはドイツの統一を到底受容れられなかったわけだ。だが、ドイツは米国に統一を容認してほしいと懇ろに要請し、米国は条件付きで統一を承認した。米国が提示した統一ドイツの条件は、統一ドイツは軍事強大国にならず、北大西洋条約から脱退せず、米国の支配(統一ドイツに米軍が駐留)を認めろということだった。ドイツ人が‘恐ろしいドイツ’を追求せず、米国がそうなれない安全装置を提供することで、百年以上憂患だったいわゆる‘中部ヨーロッパ’問題が解決されたのだ。
仮に、米国が意図的にヨーロッパから手を引けば、あるいはこの頃流行する言葉のように米国の力が衰えて、ヨーロッパの安定を保てる能力がなくなればその時もヨーロッパは今のように平和だろうか? そういう日が来る時、経済力では英国やフランと比べられないほど強大なドイツが軍事的には‘ピグミー’の状態で残っていられるだろうか? この質問に対して‘いいえ’と答えるしかないのが現実だ。それで今ヨーロッパ人が享有している平和は砂上の楼閣であり、いつでも崩れられる虚構で虚像であると言えるのだ。
「未来韓国」2012年5月第2号に掲載された文です。

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