李春根
北韓の指導者たちは以前はかなり「戦略的」に思考し行動してきた。その結果、去る20年間余り国際および国内的に最悪の状況の中でも、北韓政権は生存に成功することができた。1970年代の末に中国が改革開放を始めた以降、そして1980年代後半国際共産主義が総体的に崩壊し、1990年にソ連まで崩壊した世界は北韓には最悪の国際環境だった。さらに1990年代初、北韓を襲った大飢饉で300万人が飢えて死んだにも拘らず、北韓政権は権力を維持でき、「国家」を延命させることにも成功した。北韓という政治体制が滅びず20年以上持ち堪えたこと自体が不思議と言えるほど北韓指導者たちは粘り強い生命力を誇示した。
結果論的に見る時、北韓の指導層は自らの生存と北韓という国の延命のために「卓越」した戦略を誇示したわけだ。自分より経済力が数十倍の大韓民国からほぼ10年間数十億ドル以上を集り、米国とも取引(deal)することで自分の存在も誇示した。
金正日は、「南朝鮮人民は戦争を恐れるため銃弾数発を撃てば皆逃げる。(我々は)食糧と油も足りないが休戦線さえ越えたら南朝鮮には食糧と油がたくさんある。これを使えば簡単に南朝鮮を占領できる」と話したことがあり、そのための準備を着々進めてきた。
金正日のそういう言葉と行動は、実は孫子の教えを充実に実践した非常に戦略的なものだった。孫子は「有能な将帥は敵の米で味方の腹を肥やす」、「有能な将帥は敵の物資で戦争する」、「戦略は本質的に欺瞞だ」という真理を説いており、北韓の為政者らはこれに充実に従ったのだ。
その北韓が、最近国家大戦略(grand strategy)と戦術(tactics)の次元で深刻なエラーを犯し続けている様子を露呈している。2010年3月の天安艦撃沈事件は北韓の立場では素晴しい成功だった。大韓民国国民の30%が北側の仕業でないと平壌側の肩を持ったくらいで、恐怖で真っ青になった大韓民国国民は天安艦事件直後の地方選挙でいわゆる無条件的「平和勢力」を圧倒的に支持した。
金正日は、金正恩を後継者として立てるのに天安艦撃沈事件を非常に有効に利用した。彼らは天安艦事件を自分たちがやったことでないと否認したものの、天安艦撃沈作戦の戦略的成功を「青年大将・金正恩」の卓越した戦略と指揮者としての資質が発揮、証明されたものと宣伝し、金正恩を北韓を導けるリーダーシップを持っている人物と正当化する根拠とした。
天安艦撃沈からちょうど6ヶ月後、北韓の最高指導者および北韓軍大将に任命された金正恩は、延坪島砲撃事件を主導し、「砲術専門家」としての自分の軍事的リーダーシップを誇示しようとした。しかし、延坪島砲撃は北韓の戦略的失敗だった。韓国国民は恐怖に震えるのではなく憤怒し、国家安保がどれほど重要なのか、北韓集団の本質が何なのかを改めて悟るようになったためだ。
北韓側は延坪島挑発後また別の挑発を準備していた。2011年12月、金正日死亡後権力を受け継いだ金正恩とその支持勢力は、権力をより強固に構築するためまた別の挑発を構想せざるを得なかったわけだ。正常な国々は国民により豊かな生活を提供することで政権の正統性を確保するが、金正恩の北韓権力はそうする方法がなかった。北韓政権は対外挑発を通じて緊張を拡大再生産することでのみ国民の抵抗を押えられる体制だ。
「南朝鮮や米帝国主義者らから国を護らねばならず、そのためには軍事力を最優先視すべきで、度々敵に北韓の能力を誇示せねばならず、そのため腹ぺこを我慢せねばならない」というのが北韓為政者らのごり押し論理だ。金正恩権力を強固にする唯一の手段は対外的な軍事挑発だけだが、天安艦と延坪島挑発から教訓を得た大韓民国が我慢しそうでなかった。
それで北韓はどういう挑発を仕掛けるべきかに対して長く苦心した。北韓は大韓民国国民の血を直接的に求める挑発は当分は避けようとしたはずだ。だが、同時に大韓民国国民が恐怖に駆られるようにする挑発方案を構想した。結局考え出したのが南側に向かって長距離ミサイルを発射することだった。
北韓は3月16日に、金日成100才誕生日に際して4月15日頃「光明星3号」の人工衛星を発射すると発表した。北韓が言葉通り人工衛星の発射が「平和的な宇宙計画」ならその行動は戦略的破綻だ。食糧を物乞いせねばならない国が宇宙開発のため数億ドルを費やすことは合理的な説明のしようがないからだ。
北韓の長距離ミサイル発射計画は、計画を発表した瞬間からジレンマに直面した。米国は食糧支援を取消し、対北政策を本質的に見直すと警告している。日本はイージス艦で北のミサイルを迎撃すると発表し、韓国海軍も群山沖に落ちる北韓ミサイルの1段階を回収して北韓のミサイル能力の真実を把握すると公表した。
台湾までが北韓ミサイルを迎撃すると発表した。周辺の国々は、北韓のミサイル実験をミサイル迎撃ミサイル実験の良い機会として利用する状況だ。そうするため韓国、米国、日本は性能が優れたイージス艦を黄海や南支那海に派遣した。
韓国、米国、日本が保有した最新鋭の軍艦が自国の沖合いに集結することに対して怒らざるを得ない国は中国だ。中国が珍しくも北韓の行動に対して強力に拒否し警告する理由がここにある。
挑発を成功させる要因は、意外性、奇襲、迅速だ。天安艦の場合がそうだった。しかし、今回の北韓が長考の末に出した挑発は、挑発の成功要素が全部欠けている拙劣なものだ。金正恩とその一味は卓越した戦略的決定を下せる能力が欠如している事実を露呈してしまった。
金正日後の北韓がこのように初歩的な手が読めない粗雑な戦略決定能力を有しているという事実はわれわれには機会であると同時に挑戦だ。われわれが上手くやれば北韓を容易に変化させることのできる機会でもあり、頑として挑発を続ける北韓が大規模武力挑発を起こすかも知れない厳しい状況でもある。
この文は未来韓国2012年4月9日-22日号の李春根博士の戦略物語に掲載した。