金栄奉(世宗大学碩座教授、経済学)
CFE-Viewpoint-267.pdf (2012.03.26)
[要約]今回の4.11総選挙公約のように左派的、反市場的公約ばかりが大量に提案されたのは初めてだ。悪い事例を幾つか見るとまずいわゆる「半額授業料」公約を挙げられる。これは最も悪意的な反市場、反中小企業の公約だ。大型流通業の中小都市への進入禁止や営業時間規制などSSM規制公約の最も悪い点は、消費者を無視し競争を源泉排除する不公正的、反憲法的規制という点だ。また、青年雇用割当制は大規模企業の破産や大量失業を招く公約だ。こういう過程で経済的な衰退も問題だが、さらに心配なのはわが社会から正直、誠実などの徳性は消え、無責任と不誠実、権利ばかりを要求する社会へと変質されるという点だ。
4.11総選挙公約の特徴
最近発表されたセヌリ党と民主統合党の4.11総選挙公約の特徴は、反市場、反企業と財源対策のない「大盤振る舞いのポピュリズム」で要約される。韓国の選挙史上おそらく今回のように二大政党が経済成長や投資誘引のための企業-市場政策は徹底的に排除して、産業-企業規制、普遍的福祉供給、再分配など左派的公約だけを大量に提案した場合は初めてだ。
選挙公約の大部分はすでに発表前から反市場的、反企業的、あるいは国民のモラルハザードを唆すと批判されてきた政策だが、その中で最も悪い事例を幾つか見よう。
時代の流れに逆行する代表的な政治公約ら
1.セヌリ党は「学資金貸し出しの利率および大学授業料の追加引き下げ」を、民主統合党「半額授業料実現のための授業料後払い制および上限制導入」を公約した。いわゆる「半額授業料」は、市場経済では必然的に「半額大学」や「半額大学生」を生産する。韓国の大学進学率は80%を超えて世界最高であり大学教育が過剰供給されている。すでに数多くの大学生が今無意味に大学に通い卒業後職場が持てず失業者や就職放棄者になり、大学と社会に不満を抱き卒業後は信用不良者になる。半額授業料はこの現象を倍加させるだろう。
韓国の青年失業者数は32万4千人だが、企業は必要な勤労者12万5千人を採用できずにいる(雇用労働部、2011年10月)。外国人労働者が100万人以上国内に居住し中小事業体は彼らを雇用して延命しては持ち堪えられなくなると淘汰されるか東南アジアへ移転する。このすべての経済社会的矛盾が高学歴社会が原因であることは誰より政治家たちもよく分かっているはずだ。そういう意味で半額授業料は最も悪意的反市場、反中小企業の公約と言える。
2.セヌリ党は「大型流通業界の中小都市進入の一時的禁止」を、民主統合党は「大型流通業界の営業時間制限と許可制導入」を公約した。いったい中小都市の住民は大型デパートを享受する資格がないのか? 大型の流通業界に納品する農民や中小製造業者や協力サービス業者などは大韓民国の国民でないのか? デパートや大型の割引店のない中小都市に誰が引っ越して行き、朴槿恵代表はどういう名目で国家の均衡発展政策を宣伝できるだろうか?
「SSM(企業型のスーパーマーケット)規制」の最も悪い点は、消費者を無視することだ。今日、すべての民主主義政体は消費者主権(consumer's sovereignty)を国民の基本権として認めており、これは生産が国民、つまり消費者のためのものであってこそ理念的、道徳的に正当と見るためだ。もし、消費者の主権が無視されれば指導者主権だけが存在して権威主義政府への扉を開けてあげることになるというのが定説だ。
今日、路地の市場の商人たちも自分たちが買い物をする時はSSMに行くという。在来市場であれSSMであれ、消費者に低価格の、良質の物を提供できない事業体は淘汰されるのが公正な社会の原理に符合する。したがって、SSM規制は反市場的であることはもちろん、不公正的、反憲法的規制となる。
3.他にも、民主党は「300人以上企業に3%青年雇用割当制などで330万の青年の働き口を創り出す」と宣言した。自由企業を否定する社会主義政府でなければできない公約だ。「同一価値労働同一賃金の立法化」の公約は、国家が私企業の活動を画一的に統制するという公約だ。「最低賃金を平均賃金の50%以上に法制化」は、わが国に大恐慌級の企業破産と大量失業を招くという公約の他何ものでもない。
選択は国民の責任
今までの与野党の公約や政策提案は、「自由企業・市場資本主義」をこの国から追い出すという意図を示している。市場経済モデルは、国民の自由と責任に基づく経済活動を通じての経済成長、雇用と福祉の創出を意図する。これがこれからは次第に国家権力が市場と企業活動を規制し政府が直接福祉、雇用、均衡などを創出するという社会主義モデルに置き換えられるだろう。この過程で市場と企業は萎んでしまい、国家権力は大きくなるはずだ。市場が衰退すれば、市場が偏愛してきた正直、誠実、能力、責任などの徳目もこの社会から衰退する。そして無責任で不誠実で権利ばかりを要求する社会に変質するだろう。今回の選挙を通じて企業が生み出してきた良質の働き口が消え、国家財政が破綻することより、私たちはこの道徳の衰退をもっと心配すべきだろう。