時限爆弾になった北韓軍、「脱営兵が5~10%」

「新兵訓練を始めた時65人だったのに、教育が終わった時は18人だけが残った」
日付: 2012年02月19日 21時11分

金成昱
1.2012年現在、北韓の最も大きな不安要素の一つは「軍」だ。食糧難は昨今のことでないが2009年11月の貨幣改革後より酷くなり、2011年3月の天安艦爆沈後(韓国政府の「5.24措置」で)対北支援が中断されてからさらに悪化した。
一般住民たちはどうせ市場経済を通じて暮らすが、配給体制に全面的に依存する権力集団、特に軍隊は致命的だ。最近脱北した人々は、「飢えるのも軍隊、飢えて死ぬのも軍人」と言うほどだ。
2.「先軍政治」を謳う北韓は、慢性的食糧難の中でも軍用米の供給と副食問題の解決を最優先課題としてきた。これは「敬愛する最高司令官同志はこの数年間国の経済事情が厳しい中でも軍人をよく食べさせるために気を遣われて、あらゆる愛と配慮を下さっている」という言葉に明確に現れる(「働き手たちは軍人の食生活を改善するための事業で自らの責任と役割を全うしよう」、軍官講演資料、朝鮮人民軍出版社、2001年)。
だが、最近の事情は全く違う。去年12月統一研究院が出した、「北韓軍の規律弛緩に関する研究」に出ている脱北軍官A氏の証言だ。彼は北韓軍で17年間を服務した。
「軍部隊が売れるものは米しかないため米を市場に売ります。そのお金でガソリンを買って車に入れます。軍人に供給される米が高級軍官の車のガソリンに変わるのです。軍人の食糧配給量は800gだが、実際に一日食べる量は多分500g~560g程度に過ぎません。(2011年4月6日証言)」
北韓軍将校出身である安燦一世界北韓研究センター所長は、去年の3月あるセミナーで「北韓軍は一般住民よりもっと飢えている。彼らは市場や菜園も作れず補給が途絶えれば死ぬ」、「現在餓えている北韓軍が体制変革の主体になるだろう」と話した。ある対北消息筋は、「休戦線の精鋭軍団には国防委員会の特別指示で食糧が供給されているが、後方部隊は米の供給が途絶えてジャガイモ何粒で食事を解決して久しくて」と伝えた。
飢えている北韓軍はチンピラや盗賊に変わったりする。「昼間村に軍隊が来るという消息が伝わると、人々は直ちに家畜を家に入れて門を閉じ倉庫に鍵をかける。さらに外で干していた洗濯と履き物まで全部隠す(2008年12月12日自由北韓放送報道)」か、「軍人に遭ったら、彼らの要求に応じて命だけを保全し、外出の時良い服を着るなという話まで出回る(2011年1月24日、2月8日自由北韓放送報道)」など、住民たちの被害は多様だ。
3.軍隊の食糧難がもたらした最も大きな変化は忠誠心の弱化だ。安燦一氏は、「北韓軍が金正日政権に忠誠をつくす理由がなくなった」と言い、このように話した。
「今の軍人たちは1990年代初中盤の出生者であり、労働党の配給でなく母の市場での収入でやっと生きてきた世代だ。凄絶な商売を通じて子供を食べさせる両親を見てきた兵士たちは、労働党や金正日父子のために命を捧げるべく何の理由もないと思うはずだ。今生存が問題である彼らに、金日成が日帝を打ち破ったという抗日パルチザンの革命伝統が何の感動があり、6.25戦争の英雄の武勇談が耳に入ってくる筈がないではないか?」
軍人たちが自由はもちろん、食糧もくれない金日成一族に忠誠をつくす理由がないという指摘は脱北者の間で共通する。北韓軍が核兵器とミサイルで武装しているが、将兵らは暴圧と飢えの中で潜在的な変革勢力に変わりつつあるわけだ。
4.最近北韓軍兵士たちの脱営ラッシュ(rush)は軍内の食糧難と直結している。北韓戦略センターが2011年2月21日発表した「北韓軍の人権侵害状況」の資料によると、北韓軍大尉出身の朴某氏は、「1個中隊の戦闘員が100人だが、非常召集しても10人も集まらない」と証言した。30%以上が栄養失調で横になっており、食料を求めて部隊を離れている者が20%、工事現場に動員された者20%、無断外出25%、その他などなど。一言で軍隊と言えないわけだ。
これだけではない。▲「新兵訓練を始めた時65人だったのに、教育が終わった時は18人だけが残った」(2011.3.8,2010.6.18,自由北韓放送)、▲「歩兵師団の120人規模の中隊で10人程度が脱営する」(2011.4.25.デーリーNK)、▲「機械化部隊の600人規模の大隊から30人程度脱営している」(2011.4.25.デーリーNK)など最近の北韓ニュースで頻繁に見られる。
先ほど引用した統一研究院の資料は、「北韓軍の5~10%が脱営兵」という統計を出している。この資料は、「脱営は、北・中国境地帯より軍事境界線一帯に駐留している部隊に相対的に多い」と言い、「特に東部戦線配置部隊で脱営が多い」と明らかにした。
5.北韓政権は食糧調達に必死にならざるを得ない。今の食糧難は以前とは違う。3代世襲など住民たちの不平・不満と繋がっており、北韓の体制維持の核心である軍隊が最もひどい。金正恩の立場では深刻な問題だ。
平壌を往来して対北支援に携わってきたある牧師は、「平壌事情が尋常でない。高位幹部たちも食糧を支援してくれと煩くねだる」と言った。実際に北韓当局は、「この時代に食糧をたくさん献納する者が本当の愛国者だ」というスローガンを掲げている。脱北者出身の姜哲煥記者は、「食糧100tを国家に献納すれば‘共和国英雄’称号が授与され、50tは金正日表彰状、30tは労働党入党資格を付与する」という。
南韓内従北勢力やいわゆる宗教団体が対北食糧支援に血眼になったのも以上の平壌内の気流と関連していると言える。住民を食べさせるのでなく、軍と党、金正恩政権を救わねばならないという平壌の切迫さが反映されたものだ。
これはまさに2012年に従北勢力の執権さえ阻止したら、北韓政権の解体と自由統一の血路が開けることを意味する。何れにせよ、大韓民国は体制の運命がかかった一勝負を控えている。

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