2012年韓半島周辺の動きは?(下)

日付: 2012年01月01日 09時08分

 2012年は韓国だけでなく周辺国でも首脳交代が予想され、北韓では金正日が死んだ。それらが韓半島と韓国に及ぼす影響は何か。各国の専門家に、当該国の変化と韓半島への影響を分析してもらった。

北-第3次地下核実験濃厚の北 求められる韓国の抑止と報復

金正日急死後、北韓は労働新聞社説で、北韓を「力強い核保有国に転変させたことは万代不滅の(金正日の)業績」と称えた。今まで歩いてきた核武装の道を継承するという意味だ。
 韓国は事実上の弔意を示したり、「核放棄するなら経済支援をする」と強調してみたりと、28歳の後継者金正恩の後継体制が安着するまで見守ろうというニュアンスだ。しかし実際は全然違う。金正恩は金日成死去時の金正日より強力だ。今彼の手に握られているのは核弾頭をはじめとする大量破壊兵器だ。父の喪が明ければ韓国に圧力を加えてくるだろう。
 歴史上、秘密口座や金塊を譲り受けた者はいても、核弾頭を受け継いだ独裁者は金正恩が唯一だ。それ以外に「最年少核兵器保有者」のタイトルも加わる。たとえ短期間であっても、金正日から直接「核兵器活用秘策」も伝授されたはずだ。
 北韓は核兵器を背景に韓国政府を「口の中の舌」のように扱ってきた。米政府とも堂々とわたりあうようになった。彼らの「宗主国」である中国にまで挑戦的な態度をとるようになった。これらは核弾頭なくして可能だったろうか。
 独裁者が内部体制を固める手法の一つに、敵を挑発して政敵の攻撃対象を外に向けるというものがある。金正恩も体制を引き締めるため、韓国に挑発をしかけるだろう。
辛成澤(シンソンテク) 51年梁山生まれ。米レンセラー工科大学院核工学博士修了。現在、米モントレー大学教授。
 特に金正恩には、今年の大統領選挙を狙って国民に戦争への恐怖心を抱かせるための挑発が必要だ。日中に民間地域まで砲撃した延坪島挑発を受けてうろたえた韓国国民が、仮にソウルの中心で小型核によるテロを受けたらどうなるか。「平和が最優先だ」と唱える親北・従北勢力の候補を選ぶのは自明だ。
 北韓が、軍事的挑発を行う蓋然性は非常に高い。第3次地下核実験、長距離ミサイル発射試験、大量破壊兵器によるテロなどに走る危険性だ。
 北韓は、強盛大国入りの目標を達成できなくても地下核実験や長距離ミサイルの発射を強行するだろう。経済面での強盛大国実現は不可能で、人民が飢えに耐えてまで強盛大国を望むはずはなく、韓国に唯一勝っている核とミサイルを出すしかないのだ。
 天安艦爆沈挑発以後、中朝と韓日米の対決構図は持続しており、米国は北韓の核問題にこれといって関心を示していない。北が軍事行動に出る動機はいくらでもある。
  韓国政府はこのような状況に、見て見ぬ振りをしている。従北勢力と左派政権が作りあげた安保不感症と煽動を適切に用いれば、いつでも「南南(韓国内での)〓藤」を引き起こすことができるのだ。
 第3次地下核実験成功の可能性は100%。過去2回も成功させているし、カネも思った以上にかからない。ミサイルに搭載できるまでの小型・軽量化のノウハウが取得できるし、核融合技術の開発以外に核によるテロの技術的基盤も手に入る。6カ国協議にエネルギーを費やしている韓国に、北核放棄に対する挫折感を与える効果もある。
 新しい権力階級として登場したテクノクラート(技術官僚)らもスカッドミサイルに核弾頭を装着することに血眼になっている。そのためにはあと4、5回の実験で十分だ。
 最近になって数百人の北韓の科学技術者がイランの主要核・ミサイル施設で働いているという。パキスタンの核技術を得た北韓が、別の次元に移行しているということだ。
 金正恩が核実験をしなければならない理由はまだある。核開発に乗り出す諸外国から高額の“授業料"を得るためだ。地下核実験はそのための最大の広告になる。豊富な資金は後継体制の安定にもつながる。
 金正恩の核実験に向けた動きを抑えるには、韓国の徹底的な抑止と、相手を上回る報復で対応が求められる。今すぐ金正恩に警告をすべきである。「3回目の核実験の動きが捕捉された時点で直ちにその拠点を吹き飛ばす」と。

中-北のノーマライズ支える中国 変数は北を「お荷物」と見る民意

 政権交代期を迎える2012年。その先陣を切るのは1月に総統選挙を控える台湾だ。そして秋には中国がその入り口に立つ。習近平国家副主席が胡錦濤国家主席から中国共産党中央総書記のポストを引き継ぎ、2013年の全国人民代表大会で国家主席に就任するという過程をたどることになる。
 この権力交代は朝鮮半島にどのような影響を及ぼすのか。
 ずるいようだが答えは一つではない。しかも振り幅はかなり大きい。つまり「まったく影響がない」か「大きな影響が出る」かであって影響が出れば小さな影響では済まないという意味である。
 理由を説明しよう。
富坂聰(シンソンテク)  64年、愛知県生まれ。北京大学留学後、週刊誌記者などを経てジャーナリストに。
 まず、現在の中国の状況をながめたとき、一人のリーダーの個性がどれほど中国の行く末に反映されるのかを考えなければならないのだが、この視点で見たとき習近平の裁量権は極めて狭いと言わざるを得ない。
 というのも現在の中国社会の変化は速く、指導者の個性を反映する以前に社会の要求に対処することに追われているからだ。しかも解決すべき難問が社会に山積し、誰が指導者であってもすべきことは限られている。
 中国を囲む内外の環境を見回しても、かつて鄧小平が提唱した「韜晦とうかい外交」(姿勢を低くして実力を蓄える)を劇的に変化させなければならない要素はない。
 要するに、内政においては「改革・開放」、外に対して「韜晦外交」という不動の政策を軸に微調整を行う以外にないということだ。もちろん対朝鮮半島政策も同じだ。
 中国は「6カ国協議」の議長国として、多国間の会議を通じ北朝鮮と向き合う姿勢を崩していないが、その一方で6カ国協議の限界もにらみ、2国間での関係強化という現実的な方向へと舵を切った。
 その真意は北朝鮮の経済発展を支援してノーマライズすることである。北朝鮮の資源や一定の教育レベルを備えた安価な労働力、人口の少なさなどを考えて、その経済成長の潜在パワーに着目し、発展の果実を味わわせることで「平和の重要性」を共有できるようにするという目的だ。名付けて「普通の国」作戦であり、言い換えれば「常に喧嘩に備えて緊張しているよりも、安心して金儲けをして楽しく遊んだほうがよい」ことを体験から教えるということだ。
 中国の対北政策は、金正日の死によって大きく変わることはない。金正恩体制の安着が、当面の最優先課題になる。中朝関係を中期的に見ても、たとえ北朝鮮が多少跳ね返ったとしても、この方針が揺らぐことはないだろう。
 では、なぜ私はもう一つの可能性に触れたのだろうか。理由はこれも簡単だ。これまで書いてきた中国の対朝鮮半島政策は、あくまでも中国共産党のリーダーシップが安定していることが前提であるからだ。
 懸念されるのは中国共産党政権がいま、“民意"という変数を体内に抱え始めていることなのだ。やや乱暴な作業だが、民意を世論と置きかえれば、ネットを中心に見られる世論は北朝鮮に対して厳しく、また極めて攻撃的だ。概して中国の「お荷物」との位置付けで、「なぜ、我々があんな国を支援するのか?」といった論調に彩られている。
 冷静に考えればそろばん勘定が成立する支援でも、世論は感情的だ。そして注意しなければならないのは、中国共産党もいまや民意を無視できないほどガバナンスが落ちてきているという事実だ。民意の顔色をうかがう政権であれば、たとえ明らかに国益を損ねる選択であっても国民の人気取りのために外交関係を損ねる選択をしないとも限らない。中国の対外政策にはそうした危うさがつきまとうということだ。


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